ビジネス面での急成長中の女子サッカー、今夏のワールドカップ2023では大会初のパートナー枠が完売
現代社会において企業が、男女の機会均等を促進していくことはグローバル市場において必要不可欠な条件となっている。それはスポーツスポンサーシップの世界でも確実に進んでおり、ここ10年スパンで見れば女性スポーツにはひと昔前に比べると多くのスポンサー料金が払われるようになってきた。
特に近年、ビジネス面の急激な成長で目立っている競技が女子サッカーだ。その背景となっているのは人気の大幅アップで、それは観客動員として端的に表れている。5月にロンドンのウェンブリースタジアムで開催されたチェルシー対マンチェスター・ユナイテッドのFAカップ決勝では女子サッカーの最多記録となる7万7,390人を記録。その直後にオランダのPSVスタジアムで行われた欧州チャンピオンズリーグ決勝のバルセロナ対ウォルスブルグ戦もチケット売り切れで3万4,000人以上を集めた。
当然だが人気競技にはより多くの企業がパートナーになりたいと思う。こうして女子サッカーが盛り上がっていることへの認知度が拡大していくことで、今夏にオーストラリアとニュージーランドの共催で女子ワールドカップ2023では、同大会では史上初となるスポンサーシップ契約の枠が売り切れとなった。
具体的にはトップランクとなるFIBAグローバルパートナーが5社、2番目のグローバル女子フットボールパートナーが2社、3番目の大会パートナーが9社、4番目の大会サポーターが14社という内訳で、計30社と契約を結んだ。ちなみに前回の2019年大会は、6社の大会パートナー、6社のホスト国サポーターの12社のみであり1.5倍の増加だ。
男子スター選手のゴールシーンを集めたよくある動画、と思わせて実は女子選手のプレーという驚きを与える演出
特に欧州において女子サッカーのブランド価値はうなぎ上りとなっており、今大会に絡めて様々な企業がマーケティング活動を展開した。その中でも一際、大きな注目を集めたのがフランスの通信会社Orangeのプロモーション動画だ。
冒頭からキリアン・ムバッペ、アントワーヌ・グリーズマンなど男子フランス代表のゴールシーンが次々と紹介される。これはサッカー代表を応援するものとしてよくある構成だが、途中でこれまでのプレー映像が男子ではなく女子代表の選手たちのプレーだったことが判明する。
作品の後半では合成技術を使ってムバッペやグリーズマンがプレーしているように加工したことが明かされ、実際に切れ味鋭いフェイント、正確なパスや豪快なシュートを決めていたのは女子選手だったことを視聴者は知ることになる。
男子と女子はどうしてもフィジカルの差から、女子は躍動感や迫力で劣ると思われている。そのため女子スポーツを題材としたプロモーションにおいては男子との対比を避ける、華やかさ、しなやかさといった女子らしさを強調するのが一般だ。だが、Orangeの作品は、女子選手たちも男子と同等の躍動感、迫力のあるプレーを生み出していることを、男子選手を使いこれ以上ない形で証明した。
ステレオタイプ的な見方を覆すものは、人々の心に大きな印象を与える。そしてOrangeの作品は、男子と女子には違いがないことを見事な形で証明し、自分たちが男女平等を促進していることを多くの人々に示した意味でも秀逸なマーティングだ。