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セミナー情報

第9回SSJセミナー「NTTドコモの考えるスポーツスポンサーシップ」レポート

7月18日、渋谷ヒカリエにて第9回SSJセミナー「NTTドコモの考えるスポーツスポンサーシップ」が開催された。講師に株式会社NTTドコモにてスポーツ・ライブエンタメ業界のビジネスパートナーとの協業によるデジタルマーケティングなどに取り組んでおられるスマートライフ推進部スポーツ&ライブビジネス推進室パートナー協創担当部長の石村彰啓さん、同社でその実務を担当されている原康太朗さん、そして株式会社Jリーグデジタルよりプラットフォーム戦略部部長の笹田賢吾さんをお招きし、スポーツスポンサーシップにおける協賛と協業についてお話しいただいた。
※所属・役職は講演当時のもの

NTTドコモによるスポンサーシップの取り組み

日本電信電話株式会社(現NTT)に入社されて以来、そのキャリアの中でB to CとB to Bのビジネスに約半々の割合で関わってきた石村さんは、現在の部署でスポーツビジネスと関わるようになったのは2017年のこと。同社がスポーツに特に力を入れ始めたタイミングで、2020年に東京オリンピック・パラリンピックを控え、さらなるスポーツ市場の成長が見込まれていた時期だ。ドコモの会員データ等を活用したデジタルマーケティングでスポーツ業界の顧客基盤を拡大すること、新しい通信規格5Gサービスとスポーツやライブエンターテイメントの配信とが相性が良いことなどに着目し、パートナーシップを通じて新しいビジネスを立ち上げること、そして新技術のショーケースを創造することをミッションとしてきた。

石村さんが確信しているのは、スポーツライブ市場の重要性であり、この分野を成長させないと日本のスポーツに未来はないということ。同社のスポーツスポンサーシップは、この市場そのものを拡大し、日本のスポーツ界をアシストしていくことが基本姿勢だ。柱にしている領域は以下の3つ。

・ファンマーケティング(顧客の拡大)
・スマートスタジアム化(ライブの価値向上)
・アマチュアスポーツの支援(チーム運営支援)

この理念に基づくスポンサーシップ活動を通じて、達成したい目的は大きく2つある。一つ目はブランドイメージの向上だという。モバイル事業領域は端末や料金で差別化が難しいことからプロモーションによって、従来からの安心・安全というイメージを維持しつつ、スポーツを介して革新性やカッコよさといったイメージを醸成することでファンを増やす狙いだ。法人ユーザに対しても、スポーツ業界との協業によってファン層を拡大していく取り組みはドコモのパートナー戦略のアピールにつながる。もう一つは、ドコモ会員と非会員を分析し、ターゲットの趣味趣向に合わせてアプローチすることで関係づくりを強化しており、その中でスポーツファン層は重要なターゲットとなる。

さらに、石村さんが指摘するスポーツの魅力的な点は、情報があふれ人の注意を惹きつけるのが難しい時代でありながら、試合時間約2時間、スタジアムへの移動を含めると半日近く注意を惹けることだ。ここに関与できるのはとても価値があり、試合がない日、観戦前後に関連してどれだけ顧客との関わりしろを自然な形を持てるかが重要だという。

協業パートナーを選ぶポイント

石村さんは協賛・協業パートナーを選ぶ際のポイントについてもお話してくれた。まずはコンテンツ側が持っているファンや世界観、コミュニティが量または質において際立った特徴を有すること。ファンが日本全国に分布しているわけではなくても、一部の地域や特定の世代にとって影響力のある特徴を備えていてほしい。また、自分達の資産を使って具体的に何ができるか提案できる担当者がいることが望ましいという。加えて、実行にリソースが伴っていることも重要な点であり、スポンサーセールスにあたり最初に話を持ち込むエース級ともいえる一番手の人だけではなく、実務者となる二番手、三番手の人にも重きを置いている。

Jリーグとの協業

では、実際のところパートナー協業を行う上で、実務レベルでどのような取り組みをしてきたのか。原さんによると、2017年から始まったJリーグとの協業は、当初お互いのやりたいことが散逸状態で方向性が定まっておらず苦労したという。話し合いを積み重ね、Jリーグ側からデジタルマーケティングを強化したいと明確な提案があり、具体的にJリーグIDという共通IDでチケットや物販を一元管理し各クラブの底上げを実現したいと要望があった。同社としても携帯電話の会社からデジタルマーケティングの会社にシフトしていく流れにあり、約7000万人の顧客基盤やd払いなどネットの商圏も持っているため、お互いに利益があり、やりたいことができるのではないのかと思ったそうだ。

実際に自社のデータを使用し、トライアルとして2017年Jリーグ最終節で送客を試みたのが、チケット売上げは芳しいものではなかった。そこで、正確な事実の把握から着手。「位置情報を活用したモバイル空間統計」からデータ分析を行ったところ、来場者数を増やすには、当初は新規ファンの開拓が必要とされていたが、実際は1〜3回ほど来場経験のあるライトファンをコアファンへの引き上げが必要であることが判明した。

その後、ライトファン層に対してチケット購入を促すキャンペーンを2年間かけて何度か実施した。この時、Jリーグからの積極的な協力もあり、結果的にチケットの売上げは前年同比1.5倍(夏期)から3倍(春季)に急増したそうだ。

協業に必要な心構え

この協業を成功させるにあたり、想定外の事が起こることを前提に動く必要があると痛感したという。想定外の事が起こったときに、その事象にはお客様にどんな価値があり、自分達はどんな貢献ができるのか、そもそもの目的はなんだったかなど、解釈を加えることで課題や仮説の解像度を上げてゆくのだそうだ。今回の協業はJリーグ側の目指すゴールが明確だったこともあり、自分達の目的や目標がぶれなければプロジェクトは成就すると自信を持てたとのことである。

以上を踏まえた上で得た教訓は、一度は定説を疑うことの大切さ、顧客を知らずして良策はない、デジタルマーケティングでは悪い結果も含め現実を直視すること、そしてスポーツの力は偉大であるという4点だ。 デジタルマーケティングにおけるデータ分析とは目的ではなく、あくまでも意思決定の精度上げるための手段であり、目的と手段を逆にしないことが重要だと強く語った。そして、最後のスポーツの力では、通常新規事業は社内の承認プロセスを得るのが非常に困難なことが多いが、スポーツとなると社内外を問わず、色々な人から率先して協力を得ることができ他のビジネスにはない経験をし、その力を実感したという。

では、実際のところ、この協業は、スポンサーであるドコモ側にどのような効果をもたらしているのか。ひとつは、協業で得たデータで、Jリーグファン、サッカーファンを捕捉できるようになり、DAZN for docomoを本当にサッカー好きな人に勧めることができるようになったことだ。他には、特定クラブチームの限定dポイントカードを発行することで、他のキャリアと契約する顧客を新規ドコモ会員とすることに成功したことだ。他社の顧客との接点を作る糸口を見つけたのだ。

Jリーグからの視点

次にJリーグの笹田さんより、Jリーグの協業モデルについてお話いただいた。協業を行うにあたり、協賛金で全ての取り組みを行うのではなく、年間で何をするか計画立ててお互いに協業モデル推進のために予算を確保しておくことが非常に重要だという。また、今回のパートナーシップで最も良かった点は、ドコモが保有するデータの質が高く、さらにdアカウントからdポイント、決済までエコシステムがあり、Jリーグのチケットプラットフォームと連携することができたことだ。お互いにwin-winなモデルを作りやすく、この2年間のゼロからイチへの取り組みは非常に上手くいったと感じている。今後は、リーグとしてファンに年間3回以上スタジアムに来場してもらいコアファン化を目指しており、ドコモとも協力して取り組んでいく考えだ。

最後に、石村さんからこれからのスポンサーシップの形についてお話いただいた。スポンサーシップの価値はロゴ露出以外にも作れると実感しており、今回の協業の成果について様々なメディアで取り上げられたが、その際に特にサッカーのコアファンの間で広がったことに大きなプロモーション価値があったという。Jリーグのファン拡大に表には出ないが自社のソリューションで寄与し、さらにそれが自社の顧客ベースも拡大にも繋がり、まさにwin-winで非常によい事例となった。今後もテクノロジーやデジタルマーケティングを駆使して新しい形でスポーツの感動や興奮を届けていくことを追求していきたいと締めくくった。

ライター:平床大輔

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