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イングランドのウェンブリースタジアム、ギャンブル系スポンサーを禁止の方針

https://twitter.com/wembleystadium/status/1040857750706835456

・イングランドのサッカー協会であるフットボール・アソシエーション(FA)が、「サッカーの聖地」ウェンブリースタジアムの所有権を、パキスタン系アメリカ人富豪(プレミアリーグ、および、NFLのチームのオーナー)に売却することを検討している

・イングランド政府の規制(①ネーミングライツは2057年まで販売できない、②ギャンブル系スポンサーとの契約も禁止)が売却の障害となっている

・元々欧州サッカー界はギャンブル系スポンサーを取り込んできた歴史があり、アメリカでも5月にスポーツ賭博が全ての州で合法になり、ギャンブル系スポンサーがスポーツ界に進出している中、ウェンブリースタジアムの買収交渉の行方が注目される


イングランドのロンドン北西部に位置しているウェンブリースタジアムは、主にサッカーイングランド代表の試合やカップ戦等に使用され、「サッカーの聖地」として知られている。一度、解体し同じ場所で2007年にオープンし、現在9万人収容となっている同スタジアムの所有者はイングランドサッカーを統括している、フットボール・アソシエーション(FA)で、協会組織の本部オフィスは全てこのスタジアムに入っている。

FAは現在その所有権売却を検討しており、今年に入って、スポーツ好きの大富豪として知られる、パキスタン系アメリカ人のシャヒッド・カーンが買収に興味を示し交渉を続けている。買収金額は6億ポンド (=約890億円。それに加えて興業収入よりもFAへ支払う、という申し出)と言われている。FAはこの買収で得た収益で国中のグラスルーツのサッカー場の整備資金等にしたいと考えており、契約に前向きではあるものの、いくつかの地元政府からの規制により未だ最終契約には至っていない。

スポンサー獲得の障害となりうる規制

規制の一つは、スタジアムのネーミングライツだ。少なくとも2057年まではウェンブリースタジアムの名前を変える事は許されず、スポンサー契約にスタジアムのネーミングライツを含む事は出来ない。もう一つはスタジアム場でのギャンブル系のスポンサーをつける事を禁止する条項だ。

この二つは政府の「サッカーの為に長期的な観点でウェンブリースタジアムの未来を守る事を目的」とした規則によるもの で、FA自身も昨年理事会の決定を受け、Ladbrokeというスポーツ賭博等も手掛ける企業とのスポンサー契約を打ち切る発表をしている(但し、引き続きスポーツ賭博の不正などを防ぐ協力は続行)。

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ウェンブリーをNFLチームの第2のホームスタジアムに

カーンはイングランドのプレミアムリーグに所属するフラムFCを所有するほか、NFLのジャクソンビル・ジャガーズのオーナーでもある。もし、ウェンブリースタジアムの買収に成功すれば、ジャガーズのホームゲームのいくつかをロンドンで開催する事も視野に入れていると言われている。ちなみにNFLはロンドンでここ10年以上に渡って公式試合を開催しているが、ジャガーズは10月28日に、前年王者のフィラデルフィア・イーグルスとウェンブリーで対戦。これでロンドンゲームには6シーズン連続の登場となっていることから、イギリスですでにある程度の知名度を得ている。

「ジャクソンビルはNFLのフランチャイズの中でも最も小さなマーケットの一つであり、ロンドンで興業すれば、ジャクソンビルでの平均よりもずっと収益が上がるだろう。」とカーンの代理人の一人は7月にメディアに語っている。

ギャンブル業界からのスポンサー獲得規制緩和の動き

しかし、カーンにとって莫大な投資となる今回の買収において、「ネーミングライツ」を当分の間販売できないことと、ギャンブル業界からのスポンサーは禁止という規制は大きな問題だ。アメリカでは今年5月、最高裁判所がそれまでネバダ、デラウェア、モンタナ、オレゴンの各州にだけ適用外とされていたスポーツ賭博禁止の法律を無効とする判決を下し、どの州でもスポーツ賭博が合法となった。それを受けて7月にはNBAが多くのカジノを経営するMGMリゾートとのパートナーシップを契約 。8月にはNFLがそれまで厳しく禁じて来たチームとカジノ業界とのスポンサー契約条件を緩和する事を発表した。

アメリカのスポーツ業界がカジノやスポーツ賭博サイトを経営する企業からのスポンサー収入を見込めるようになった風潮の中で、カーンの所有するジャガーズはギャンブル業界からのスポンサーは取りづらくなる(もしくは取ったとしてもスタジアムでは一切のロゴ掲出は出来ない)。また、ヨーロッパではギャンブル業界からのスポンサーは今や大きな割合を占めるようになっている事を考えてもかなり不利な条件と言える。

提示されている規制を受け入れてカーンが買収を果たすのか、地元政府から譲歩を引き出す事が出来るのか、それとも新たな買い手が出現するのか今後の交渉に注目したい。

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