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セミナー情報

第6回SSJセミナー「スポーツスポンサーシップと社会貢献活動」

11月19日、SSJの第6回セミナー「スポーツスポンサーシップと社会貢献活動 〜CSRの要素をアクティベーションに取り入れることの価値を考える〜」が開催された。

今回は、これまでのキャリアを通してスポーツを活用した社会貢献を研究・実践されてこられた岡田真理さんをゲストにお招きし、スポーツの社会的価値や社会課題解決型スポンサーシップについてお話いただいた。

岡田さんはライターとして活動する一方で、NPO法人『ベースボール・レジェンド・ファウンデーション(BLF)』を運営し、プロ野球選手やプロ野球球団が行う慈善活動のサポートを行うなど、スポーツを通した社会貢献活動に従事している。また、ジョージ・ワシントン大学の『Executive Certificate Program』でスポーツ・フィランソロピー(スポーツにおける慈善事業)を専攻・修了している。

スポーツ・フィランソロピーに興味を持ったきっかけ

スポーツ・フィランソロピーについて、岡田さんは「スポーツにおける慈善事業」と考えているが、学問としてもまだまだ発展途上の分野であり、人によってその解釈は異なるという。そのため、このセミナーはスポーツ・フィランソロピーという考え方を知り、スポーツを活用した社会貢献活動の実践に向けたヒントにしていただきたい、という言葉からスタートした。

岡田さんがスポーツ・フィランソロピーに興味を抱き、NPO法人を立ち上げるに至ったきっかけは大きく二つあったという。

一つは2003年から2007年に勤務していたプロアスリート専門マネジメント事務所でのK1須藤元気選手のマネージャー経験だ。須藤選手が現役時代に環境問題の啓発活動や開発途上国の子供の支援を通して、彼の世界が広がっているのを近くで感じていた。

二つ目は2013年4月15日にボストン・マラソンで爆弾テロが発生した際のボストン・レッドソックスのチャリテイー活動だ。テロ発生後すぐにチャリティーを実施し1ヶ月で219万ドルを集めた。不測の事態でも迅速な対応ができた要因はすでにチャリティーの基盤があったからであることを知り、日本との差を痛感したという。また、その年のワールドチャンピオンにも輝いており、物理的にも精神的にもボストンの人々を支えていることに感銘を受けた。

プロスポーツ×チャリティーの特性と課題

スポーツを活用したチャリティーは、ファンやそのスポーツをする人を巻き込めることが大きな特徴だ。そのため、社会課題を広め支援者を増やすことができたり、継続的な支援が行え、参加した人に楽しい支援体験も提供できることがポイントだ。

また、プロアスリートの社会性を高めることにも繋がるため、プロ意識、自尊心、感謝の気持ちを醸成したり、選手のセカンドキャリア問題の解決に繋げることもできるため、アスリート自身に与える影響も大きい。

一方で課題となっているのが、ホームラン一本につきいくらを寄付するというような成績連動型の支援がまだまだ多く、安定性や継続性が保証できないことだ。また、選手の経済的負担が大きいと活動が制限されてしまうことも課題となっている。

それを解決する方法として、スポンサー企業を巻きこむ『選手(チーム)×チャリティー(NPO)×スポンサーシップ』の形が理想的である。スポンサー企業側からの支援が入ることで、スポーツコンテンツ側は安定性・継続性が期待でき、選手は引退後の活動にも繋がり社会性も磨かれるというメリットがある。スポンサー企業側にも、そのスポーツファンを企業のファンにすることや、スポンサーシップそのものがCSRとなったり、CSR単体のプロモーションができるなどのメリットがある。

スタンダード・チャータード銀行の事例

スポンサーシップの最大の活用ポイントは企業ロゴの露出であることはこれまでと変わらない。しかし、すでに認知度がある企業は、具体的な課題を解決するための手段としてスポーツを活用することが重要となってくる。そして、それを一歩先に進めて『社会課題の解決に活用すること』が欧米でのトレンドになっている。

その好事例の一つとして挙げられたのが、サッカーのイングランド・プレミアリーグに所属するリバプールFCとその胸スポンサーであるスタンダード・チャータード銀行が行うCSR活動だ。ロンドンを拠点とする同銀行は、アジア・アフリカ・中東の顧客からの信頼を獲得する必要があった。以前よりCSRとしてブラインドサッカーなどを通して視覚障害を持つ人々を支援しており、リバプールFCのユニフォームに掲載する企業ロゴを年に一回「Seeing is believing.」のメッセージに置き換えることで、このCSR活動をプロモーションしている。結果として、視覚障害支援のため、 50万ドルの寄付を集めることに成功した。

普段見慣れているロゴが変わるこの施策は、ファンに同銀行が視覚障害の支援を行なっていることを知ってもらえる機会となる。そして好意的なイメージを獲得し、信頼へと繋げている。

CSRをプロモーションするべき理由

CSRなどのフィランソロピーの要素が、次世代マーケティングにとって非常に重要となっている。

2025年までに、世界の労働力の75%がミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭までに生まれた人々)になると推測されている。そして、ミレニアル世代の91%が、社会課題を解決することに関連しているブランドに乗り換えると回答している(参考:2015 Cone Communications Millennial CSR Study)。 このことから、企業は自社が行うCSR活動を多くのミレニアル世代にプロモーションしていく必要がある。

その手段として『スポーツ×スポンサーシップ×フィランソロピー』のように融合させるのが理想形である。スポーツコンテンツホルダー側は更なるファンを獲得でき、企業側はスポンサーシップで活動のサポートをすることで企業の新たなファンの獲得やビジネスの成功に繋がる。フィランソロピーの観点では社会課題が解決するなど、三方良しの関係性が成立する。

一方で、費用対効果の計測には課題が残る。社会貢献活動とビジネスの関連性についての完璧なデータを導き出すことは非常に難しく、企業やそれに関わる人たちがどれだけ幸福になれたかという違う尺度を取り入れることも一つの解決策になっている。東京西川は、アスリートを活用した社会貢献活動行いつつセールスプロモーションを上手に行なっている。

<東京西川インタビュー記事>
東京西川のスポーツにおけるパートナーシップ戦略 前編後編

日本で実践するために

欧米では寄付行為が一般的であり、「社会的に成功した人は社会に還元しなさい」という教えもあり、日本とは社会的背景、企業文化、スポーツを取り巻く環境が大きく異なる。そのため、日本で『スポーツ×スポンサーシップ×フィランソロピー』を推し進めていくためには意識改革が必要となっている。スポーツや企業の発展、社会課題の解決に繋げていくためにその重要性は今後より高まっていくだろうと締めくくった。

ライター:編集部

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