寝具メーカー「東京西川」の執行役員・竹内雅彦氏に、スポーツスポンサーシップの意義をお伺いするインタビュー。前編ではスポーツコンテンツとパートナーシップを組むことになった背景について語っていただいた。後編ではスポーツコンテンツならではの価値についてお聞きする。
スポーツとのパートナーシップにしかない価値とは
――貴社のCSRとして、契約アスリートであるネイマール選手の慈善活動もサポートされていますね。
ネイマール選手は恵まれなかった幼少時代の体験から、ブラジルの貧しい家庭や子供を支える「Institute Project Neymar Jr.」という施設を設立されました。我々もその思いに深く共感したため、商品の提供によって彼の活動を支援することにしたのです。具体的には、勉学やスポーツのサポートとして「エアー」のクッション2500個をブラジルの子供たちに提供しました。ビジネス上のつきあいだけではなく、思いを共感できるコミュニケーションがあったからこそ実現した支援だと感じています。
――このような支援活動が、事業の成功に結びいている実感はありますか。
事業に直結するかはわかりませんが、ほかの例で言うと、熊本地震の際に女子ゴルフの有村智恵プロを通じて仮設住宅や体育館にマットレスを供給したことがあり、その時の被災者の方が「苦しいときに協力してもらった」と購入に来てくださったことはありました。ただ、そういった目先の売り上げ云々よりも、アスリートとどれだけ夢を共有できるか、つまりネイマール選手の場合だったら、施設から巣立った子供がいずれ世界のトッププレーヤーになる可能性もあるわけで、そんな夢をネイマール選手と共有することにこそ価値があると思っています。
――そういった活動においては、費用対効果は違う尺度で測定するということでしょうか。
そうですね。費用対効果としてどれくらい数字が出るかではなく、我々は「信用度」という違う軸で効果を測っています。例えば、契約アスリートが本気で「睡眠は大事だ」と語ってくれれば、少なくとも同じ競技をしているほかの選手、学生、子供たちやその家族など、接点のある人たちには強いメッセージを発信できます。それは長期的なブランディングとして大きな可能性を秘めています。ですから、契約アスリートと理念や価値観、夢を共有することが、やはり第一なのです。
――ほかにはない、スポーツコンテンツならではの価値とは何でしょうか。
今お伝えした信用度にもつながりますが、やはり「本物感」でしょうか。単に知名度を活用した広告ならアスリートでなくても、タレントさんでもいいわけです。でも、私たちがアスリートを選ぶのは、彼らが身体のケアやパフォーマンスアップにおいて正真正銘の“本物”だからです。決して言わされているのではなく、日々体験しているからこそ言えるコメントには実感がこもっています。それはスポーツにしか生み出せない価値ではないかと感じています。
――スポーツやアスリートには敗北や怪我など先が読めないリスクもありますが。
成績がいいとかトップアスリートであることも大事な要素ですが、どれだけ本気で一つの事象に取り組んで、夢を追い求めているかというビジョンを共有できることが第一。むしろ、活躍している時よりも選手が困っている時にどうサポートできるかという考えです。ネイマール選手も、前回のワールドカップでの骨折を経た後の契約でした。また、せっかくご縁をいただいて契約に至ったのなら、極力長くサポートしていきたいという考えが基本です。睡眠は一生のことなので契約終了だからすべて終了ではなく、要望があれば契約後も関わり合いを持っていきたいと思っています。
――最後に、スポーツスポンサーシップの成功の秘訣とは何でしょうか。
単なる広告塔として起用すると、アスリートには見透かされるような気がします。一時的な企業の象徴としてタレントさんの代わりに起用する感覚であれば、リスクもあるしデメリットも大きいかもしれません。お互いが持つ理念に心から共感し、ビジョンを共有し合えるアスリートやスポーツチームとしっかり取り組み、信頼性のあるメッセージをきちんと発信できるならば、タレントさんと契約する何倍もの効果がある。それが、これまでアスリートとパートナーシップを組んできた実感です。
