・IT大手企業とプロスポーツリーグのパートナーシップ
・LGBTを公表した女性コーチを起用したCMをスーパーボウルにて放送
・性的マイノリティの支援は、富裕層や高学歴者をターゲットにしたブランドコミュニケーションの一種のトレンド
・アメリカ国民の約7割(特に富裕層や高学歴者が多い都市圏になるほど支持者の割合は高い)が性的マイノリティを支持


女性かつLBGTのコーチとして、初めてスーパーボウルに出場

カンザスシティ・チーフスが50年ぶり2回目の優勝で幕を下ろした2020年のスーパーボウル(アメリカンフットボールNFLの決勝)では、惜しくも敗れたサンフランシスコ49ersのオフェンシブ・アシスタントコーチを務める33歳のケイティ・ソワーズにも注目が集まった。

ソワーズは女性かつ、同性愛者である性的マイノリティ(LGBT)をカミングアウトしたコーチとして初めてこの大舞台に立つ人物となった。LGBTでも臆せず積極的に自分の意見を発信するカリスマ性も魅力となり、インスタグラムでは約18万人ものフォロワーを持つ。

彼女の経歴を紹介すると、アメリカンフットボール女子アメリカ代表選手として世界選手権で優勝するなど活躍。故障を機に現役引退後は指導者の道を進むと、2017年からNFL史上2人目の女性コーチとして49ersに加入している。「最高の女性コーチになりたいんじゃない、最高のコーチになりたい」と語る彼女の手腕は高い評価を受けており、選手からも全幅の信頼を寄せられている。そんなソワーズ氏のストーリーを描いたCMを制作したのが、2013年にノートPC『Surface』をNFLのオフィシャル・ラップトップとする契約を締結した、IT大手のマイクロソフトだ。

今回の試合でオンエアされた同社のCMは彼女の生い立ちから現在に至るまでを本人の語りで紹介するもので、コーチング現場ではSurfaceを用いて選手を指導する姿が映し出されている。しかし、この映像の中では一切製品の機能や特徴についての情報は含まれないどころか、彼女が使用しているタブレットがSurfaceであることすら言及されていない。あくまで様々な障壁を乗り越えてきたソワーズの挑戦を称え、すべての性差別に関する問題と戦う人を応援するメッセージが込められている。

マイクロソフトはアメリカだけでなく、世界中のスポーツファンが注目するこの一大イベントの機会を用いて、自社製品の機能性をアピールするのではなく、性的マイノリティを応援する姿勢を示し、時代のパイオニアに活用されている事実を見せることで、ブランドの信頼感や先進的イメージを獲得する狙いだろう。

マイノリティ支援を表明することで、ターゲット層の好意形成に繋がる

実は今回のスーパーボウルでは『レインボー・ウェーブ』と称されるほどジェンダー問題にかかわるCMが多く、実に8社が性的マイノリティや女性を意識的に起用した映像を制作した。これはアメリカでこの問題に対する社会の注目の高さが背景にある。

最近の調査では、支持政党や宗教によっては依然として反対派も見られる一方、アメリカ国民の約7割が性的マイノリティを支持するとされており、特に富裕層や高学歴者が多い都市圏になるほど支持者の割合は高くなる傾向が出ている。こういった背景からCMを通してマイノリティ支援を表明することが、ターゲット層の好意形成や顧客獲得に向けたプロモーションの手段として一種のトレンドになっているようだ。

なお、スーパーボウルのCMといえば30秒間の1枠が5億円とも言われる高額ぶりで知られ、毎年試合終了後にはスポンサー各社が社運をかけて制作したCMの評論がアメリカ人定番の話題となる。全国紙『USA Today』が1989年から毎年発表する視聴者の投票ランキングによると、今年オンエアされた全62本のCMの中で、ソワーズ氏を起用したマイクロソフトのCMは総合9位、YouTubeの再生回数では5位にランクインする高評価を受けた。これは社会が彼女のような挑戦者をロールモデルとして評価したことの現れであると同時に、マイクロソフトの企業姿勢が好意的に受け入れられた証だ。

ただ単純に製品のメリットを伝えるのではなく、企業として社会課題への向き合い方を発信することでブランドのファンを増やす。それで結果として顧客の購買行動へと繋げようとする発想は、マーケティング戦略を検討する際に参考となる事例だ。