・アメリカでは学生アスリートが自身の肖像権を用いて個別にスポンサー契約などを結び金銭を受け取ることを禁止されていたが、7月に解禁。
・最初に格安SIMのBoost MobileがSNSで人気の双子バスケ選手と契約し、若年層への影響力を活用。
・より多くの企業がスポンサーシップに参入しやすくなった一方で、企業が選手と直接契約することでチーム側の収益が減少することが懸念される。
学生アスリートがNIL契約で収入を得ることが可能に
7月上旬、アメリカのスポーツビジネスにおいて1つの画期的な出来事が起こった。長らく全米体育協会(NCAA)は学生アスリートが、自分たちの肖像権を用いて個別にスポンサー契約などを結び金銭を受け取ることを禁止していた。しかし、NCAAが巨額の放映権、スポンサー収入を得ていながら、選手たちにその恩恵が還元されていない状況に異議を唱える元選手たちによる訴訟が発生する。
Name、Image、Licenseの頭文字をとってNIL問題と言われたこの件はここ数年、裁判所で元選手たちの主張を支持する判決が下されてきた。その流れの中、NCAAは7月に入って遂にNILで選手たちが利益を得ること、そして代理人を雇うことを認めたのだ。
この発表を受け早速、カレッジスポーツの2大人気競技であるアメリカンフットボール、男子バスケットボールでそれぞれ将来のNFL、NBA入りが予想される有望株が代理人を雇い、総額1億円、2億円規模のスポンサーシップ契約を結んでいる。彼らはそれぞれ全国メディアでその戦いぶりが紹介される名門校の中心的存在であり、メディアへの露出を考えれば、企業が契約に乗り出すことに驚きはない。
SNSで大人気の双子バスケ選手が契約を獲得
ただ、上記とは違う文脈での契約もあり、今回はそういった事例を紹介したい。NIL解禁が明らかになった直後、大きな話題となったのがフレゾノ州立大女子バスケットボール部でプレーする双子であるハンナ、ハリーのカビンダー姉妹だ。彼女たちは主力選手であるが、フレゾノ州立大は強豪ではなく、女子バスケということで彼女たちのプレーがメディアに取り上げられることは稀だ。
しかし、彼女たちは美人の双子アスリートとしてTikTokで350万人のフォロワーを持ち、若者には絶大な人気を誇る。だからこそ若者を顧客の重要ターゲットとしているMVNOのBoost Mobileは、2人とのスポンサー契約を締結。アスリートとしての実力は世代トップクラスでなくとも、彼女たちのように同世代の高校生、大学生に強い影響力を持った選手たちはおり、ひと昔前に比べるとSNSでより可視化されやすい。カビンダー姉妹のような特徴を持ったアスリートと企業が契約を結ぶケースは増えてきそうだ。
@cavindertwins@boostmobileofficial 🧡 ##TeamBoost ##BoostPartner♬ original sound – Deshaun ㊕
おらが街のヒーローをサポート、ローカル企業がスポンサーをしやすい効果
そして、基本的に大都市を本拠地とするプロチームと違い、大学チームの地元は小都市であることも多い。そこで認知度アップを目的というよりもおらが街の身近なヒーローをサポートすることを目的に地元企業が名乗りを上げるケースも見られる。例えばアメリカンフットボールにおいて、オフェンシブラインは縁の下の力持ち的なポジションで、脚光を浴びることがない地味な存在だ。それにもかかわらずウィスコンシン大、ノートルム大のオフェンシブラインは、ユニットとしてそれぞれ地元のレストランとスポンサー契約を結んでいる。
Excited to announce our partnership with @MissionBBQ as the official BBQ of the Wisconsin O-Line! pic.twitter.com/RZ0QILU5YG
— Logan Bruss (@LoganBruss) July 14, 2021
また、ピッツバーグ大学のクォーターバックを務めるケニー・ピケットは地元のホテルと契約。クォーターバックはフットボールの花形ポジションであるが、その契約内容はピケットを相手ディフェンスの激しいラッシュから守ってくれるオフェンシブラインと週1回、ホテル内のレストランで夕食をご馳走できる権利だ。
For my first NIL deal, I want to make sure I can take care of the big guys who take care of me. I’m excited to announce my association with the Oaklander Hotel & their restaurant, Spirits & Tales, where I will be treating my linemen to our weekly Hog Dinners! #OaklanderPartner pic.twitter.com/hek0x0ujB3
— Kenny Pickett (@kennypickett10) July 15, 2021
学生アスリートのNIL契約が解禁となったことで、より多くの企業がスポーツスポンサーシップに乗り出しやすい間口を広げる効果は出ている。一方で、予想できたことだが、選手への契約が増えることで、大学チームの収入が減ってくる可能性は十分にある。
総合格闘技MMAを代表する最強集団であり、フロリダ州南部を拠点に40店舗以上のフィットネスジムを展開している“アメリカン・トップ・チーム”は、地元の名門マイアミ大アメリカンフットボール部の全部員に、それぞれ月額500ドルの契約をオファーした。90名の全部員で換算すると年間54万ドル(約6,000万円)となる。
これは、大学側と年間契約で結ぶのと遜色ない金額だ。ただ、大学側と結ぶと、金額は選手たちに直接は支給されない。アメリカン・トップ・チームの場合、圧倒的な身体能力を誇るフットボール選手たちと個々に接点を作ることは、MMAに転向した活躍する金の卵を獲得に向けたリクルーティングの側面もあることは無視できない。このように同じ金額を払うのならチームではなく、選手個々に支払う方が自分たちにとって効果的な露出効果が得られると考える企業たちが増えてきてもおかしくはない。
NIL契約が、アメリカ大学スポーツ界をこれからどのように変えていくのか。引き続き注意深く観察していきたい。