・お菓子ブランドとプロスポーツリーグのパートナーシップ
・全米視聴者数が1億人を超えるスーパーボウルでCMを流す代わりに、30分のオリジナルミュージカルを製作し、一度だけNYのブロードウェイで上演。
・ミュージカルには実力ある脚本家や有名俳優を起用し、チケット収入はAIDS患者を支援する慈善団体へ寄付。
・ただCMを流すだけではなく、ミュージカルの製作・上演という話題を作り、いかに全米に情報拡散させるかがマーケティングの肝
あえてスーパーボウル当日に一大キャンペーンを実施
新年が明けるとアメリカではいよいよ2月3日に開催される北米アメリカンフットボールリーグNFLの王座決定戦であるスーパーボウルへの注目が高まる。それに伴って毎年大いに話題となるのがスーパーボウルのCM合戦である。毎年全米で1億人以上が視聴すると言われ、スポーツ大国アメリカにおいてもダントツの人気を誇る国民的行事であるこの試合の生中継で放送されるCM枠は、30秒で500万ドルを超えると報じられる。この高額な権利を獲得した各社のキャンペーン競争はすでに過熱しており、CMのための予告(ティザー)映像やメイキングなどを次々と公開。メディアもそれを煽るように、早くも各社の動向や注目のプロモーションなどを伝えている。
そんな中、CM枠を持たないにも関わらずスーパーボウルを絡めた一風変わったマーケティング戦略でここ数年に渡って注目を集めているのが、グミで知られるお菓子ブランドのスキットルズだ。スキットルズは昨年、CMを流すのではなく、同社がスーパーボウルのために制作したCMを見る1人の少年のリアクションを配信するという、かつてない取り組みで話題をさらった。
また、2017年にはスーパーボウル開催地がヒューストンであることに着目したキャンペーンを実施。これはNFLと全く縁もゆかりもない英国スコットランドのヒューストンにスター選手のマーション・リンチが出向き、スキットルズを配りながら街を歩く人々にスーパーボウルについて知っているのか尋ねる街頭インタビューものだった。
<2017年にスーパーボウルに合わせて配信した動画>
そして今年はスーパーボウルが行われる2月3日の午後1時からCMを1度だけ生披露する。舞台はニューヨークのブロードウェイ、1500人を収容するタウンホールで、CMと言っても30分間の完全オリジナルミュージカルを製作し、1度だけ上演するというもの。主演は連続ドラマの主演でゴールデングローブを受賞した有名俳優が務め、脚本はピューリッツァー賞戯曲部門のファイナリストが手がける本格的な舞台で、30ドル〜205ドルで販売されたチケットはほぼ売り切れている。
一般的にブロードウェイのミュージカル制作費は1000万ドル前後と言われている。当然、一度限りの公演となる今回のスキットルズの場合これよりは少ない費用が予想されるが、それでもスーパーボウルのCM枠を購入するのと比較しても決して安い買物とは言えないだろう。チケット収入は全てAIDS患者を支援する慈善団体に寄付をすると明言しているので、実質的な収益はゼロだ。それでも敢えてCM放送ではない手法を選んだ理由は、スーパーボウルならではの背景にある。
<2019年2月3日に上演するミュージカルの予告動画>
当日のCMだけでなく、そこに至るまでのマーティングが重要
前述の通り、アメリカ国内で最も企業CMが注目される日とあって、スーパーボウルのCMは放送される30秒間だけでなく、それに至るまでのマーケティングが重要となる。SNSを活用したキャンペーンや、意外な著名人の起用、サプライズ発表など、何ヶ月にも渡る話題作りの集大成としてCMが流される。つまり、約1億人という視聴者への直接的リーチに加え、それに紐づく情報拡散力こそがスーパーボウルCMの核心的バリューであり、破格な投資に値するのだ。いかに30秒の”一発屋”で終わらせず、長期的に人を惹きつけるストーリーを作るかがマーケターの腕の見せ所である。インパクトのあるキャンペーンを展開し、他社が思いつかないような仕掛けで人々の印象に残らなければ、高額な投資を回収することはできない。
スキットルズの狙いはもちろん、シアターに集まった1500人の観客にだけブランドをアピールすることではなく、この舞台に関する話題を全米に拡散することである。同社は思い切った作戦によって世間に驚きを与えることには成功したようだが、一方で公開当初の時点でティザームービーの再生回数は、爆発的な伸びではない。SNS公式アカウントに対する反応を見ても、”バズる”とまでは至っていない状況が伺える。果たしてこの前代未聞の試みが、ショーの終演から4、5時間後に行われるスーパーボウルと絡めて、いかにより大きな話題を生み出していくことができるのか。スキットルズが描くシナリオの行方に注目したい。