・自動車配車サービス大手による大型スポーツイベントでのアンブッシュマーケティング
・新サービスへの会員登録促進が目的で、敗戦チームの本拠地に割引チケットを配布する、というユニークなインセンティブを用意したキャンペーンを実施
・PR動画には過去のその大会で勝利と敗北どちらも経験した有名選手を起用
敗戦チームの都市に割引コードを配布
2019年2月3日、北米アメリカンフットボールリーグNFLの王座決定戦スーパーボウルが開催された。ニューイングランド・ペイトリオッツが13-3でロセンザルス・ラムズに勝利したが、試合当日、自動車配車サービスのUberは敗戦して悲しむラムズファンを思い遣るようなキャンペーンを実施した。
これは『アンハッピー・アワー』と名付けられ、敗戦チームの都市に住んでいるかつ、同社の会員サービスに登録している人を対象に、試合終了後60分間のみ有効な割引コードを配布し、最大50ドルが無料になる。よって今回は、ラムズ本拠地のロサンゼルスの人にこの割引は適応された。
開催前からSNSを中心にキャンペーンの宣伝も行われ、宣伝動画にはシアトル・シーホークスのラッセル・ウィルソンが出演している。起用理由について同社のCMOレベッカ・メッシーナは、ウィルソンがスーパーボウルで勝利と敗北どちらも経験しており、今回の宣伝に最適なアスリートだと判断したからだと述べている。
One city gets the ring. The other gets the ride. ?#UberRewards members in the losing city get free Unhappy Hour rides for 60 minutes after the game.
Terms apply. https://t.co/vijEHQCKbM #ad pic.twitter.com/QssM3kLOgx— Russell Wilson (@DangeRussWilson) January 31, 2019
同社の会員サービスは、2018年11月から9都市限定(マイアミ、デンバー、タンパ、ニューヨーク、ワシントンDC、フィラデルフィア、アトランタ、サンディエゴ、ニュージャージー)で開始された。1月の時点で25都市へ拡大し、両チームの本拠地ボストンとロサンゼルスでも導入されている。その後、3月4日には全米に拡大している。サービスの利用金額に応じてブルー、ゴールド、プラチナム、ダイヤモンドの4つのグレードに分けられ、グレードが高いほど特別な優待を受けることができる。例えば、最上位のダイヤモンド会員は、空港送迎の待ち時間なしで優良ドライバーの車に乗車できる。
新会員サービスを宣伝するアンブッシュ施策
同社はNFLの公式スポンサーではないため、このキャンペーンはスーパーボウルに便乗したアンブッシュ・マーケティングとなっている。スーパーボウルは全米で1億人以上が視聴する一大スポーツイベントであり、自社の宣伝をする絶好の機会であるが、スポンサーでなければ公式ロゴを使用したり、直接大会と関連づけたマーケティング活動を行うことはできない。宣伝動画の中で、ウィルソンは最後に “after the big game(大きな試合の後)” という表現を使用しており、動画を見た人に自然と想起させる工夫がされている。
そして、この施策の最大の目的は、会員サービス の認知を高めることだろう。敗戦チームファンへのサービスは話題性がある。また、今回のカードはペイトリオッツがボストン、ラムズがロサンゼルスと共に大都市をフランチャイズとしていることで、多くの人々にアピールできた。
ちなみにUberの競合であるLyftも、開催2日前から当日までの期間に今年の開催地アトランタ市内で乗車すると、デルタ航空のマイルが溜まるキャンペーンを実施していた。UberやLyftが実践したように、自社サービスが大型スポーツイベントの際にどのように利用されるかを理解した上で施策を考案することは、アンブッシュ・マーケティングにおいて重要な視点だ。