・金融会社とプロリーグ加盟を目指すチーム(未発足)とのパートナーシップ
・リーグ拡張のためクラブが増える機会に、コーポレートセンターのある地域へのチーム招致を後押し。チームが発足した際に胸スポンサーになることを発表した。
・リスクを取り一緒に夢を応援する姿勢を示し、地域へのイメージ戦略が狙いと考えれる
MLSがチーム数を拡大、残り2チームの枠を争う
アメリカのプロサッカーリーグ、メジャーリーグサッカー(MLS)は現在24のクラブが加盟しており、今まさにリーグ拡張を進めている最中だ。リーグは2022年までに30までクラブを増やすことを宣言しており、すでに4つが内定している状況である。残り二つの椅子が争われている中で、有力視されている地域がノースカロライナ州シャーロットだ。かつて財政的条件での折り合いがつかず、招致に失敗した過去があるが、今回は同じシャーロットに本拠地を置くアメリカンフットボールNFLのカロライナ・パンサーズでオーナーを務めるヘッジファンドマネージャーのデビッド・テッパーが招致活動の指揮をとることになった。
Ally is thrilled to be the first partner alongside David Tepper to fuel the mission of bringing top pro soccer to Charlotte and the Carolinas! Let’s rally together and throw our scarves up in support of CLT soccer! #CLTwantsSoccer pic.twitter.com/Yl24pzRsk8
— Ally (@Ally) July 19, 2019
彼と組みシャーロットのMLS入りを後押しすると手を挙げたのが、主に自動車ローンなどを扱う金融会社、アライだ。同社はMLS入りが確約されていない、この未発足のチーム初のスポンサーとして複数年契約を結んだことを、先月明らかにした。チームが誕生したあかつきには、社名がユニホームの胸に掲出されることになる。経済基盤が担保されたことはシャーロットの招致活動にとって非常に大きな意味を持つ。一方で、不確定要素が多い状況でリスクを冒してもなおスポンサーとなることは、企業に何をもたらすのか。
アライ社の狙いはまず地域への貢献による認知度と好感度のアップだ。もともと同社はミシガン州デトロイトに本社を置いてるが、企業活動の中枢を担うコーポレートセンターはシャーロットにある。さらに現在26階建の大規模な自社ビルを建設中で、2021年に完成予定だ。銀行やローンなど人々の生活に欠かせないサービスを提供する企業だからこそ、より地元住民にとって身近な存在になるためのイメージ戦略として、地域が一丸となって応援するスポーツクラブをサポートするのは効果的だろう。同社CEOは「我々がスポンサーとなり新たなMLSクラブが誕生し、この地域にポジティブな経済効果を生み出すのを楽しみにしている」と述べ、自社がシャーロットにとってプラスの存在となることをアピールした。
未完成のチームを支援する攻めのスポンサーシップ
また、同じシャーロットに本拠地を置くNFLやNBAなど既存クラブへのスポンサードでは無く、不確実性が高い状況での投資というのも、同社のビジネスとの親和性の高さから、あえて選んだ一手のように見える。金融業の役割として融資やローン、投資運用などが挙げられるが、まだ実態が見えない状況でもスポンサーになると宣言することで、「リスクを取っても挑戦する企業」、「一緒に夢を応援する企業」、「投資を自ら育てる企業」等のメッセージを発信する狙いだろう。同時に、未完成のクラブのスポンサーという珍しい投資方法は世間の注目を集め、露出機会の拡大など広報的観点からしてもメリットがありそうだ。
社名の『アライ(ally)』はもともと「味方」の意味。まさに地域にとっての「アライ」である姿勢を示したいとする意図が伺える。すでにNFLチームのオーナーとしての実績があるデビッド・テッパーと、金融大手のタッグによる招致活動の行方を見守りつつ、リスクを避けて他社の出方を伺いがちになる保守的な日本企業にも、同社の攻めのスポンサーシップのあり方を、どうか頭の片隅に置いてほしいと願う。