・ショッピングアプリが国際スポーツイベントで行ったアンブッシュマーケティング
・大会に出場しない5か国のスター選手が、アプリを利用して休暇を楽しむCMを作成。選手自身もSNSで動画を発信して話題に。
・グローバルにサービスを展開していることをPR
キャンペーンにW杯に出場しない選手を起用
格安ショッピングアプリ『Wish』は、中国の工場で生産された製品を直接仕入れ、格安価格で販売する手法で日本を含む世界40カ国以上に展開するアメリカ発のサービスだ。2019年の時価総額は112億ドル(約1兆2000億円)と勢いのあるスタートアップ企業である。
その同社は、2018年のサッカーロシアW杯にあわせてグローバルキャンペーンを検討した。当初はメッシやロナウドといった大会に出場する世界的スター選手へのオファーを視野に入れたていたが、それでは他社との差別化ができずに埋もれてしまうかもしれない。また、大会公式スポンサーでもない同社は直接的にW杯と結びつく言葉や映像を使用することができない。そこで、他の企業が絶対にやらないことをと考えた結果、あえて本大会の出場を逃した国の選手を起用するプロモーションを実行した。
W杯に出場しない国の中から同社のターゲット市場であるイタリア、オランダ、チリ、そして母国アメリカの4か国から、それぞれのスター選手に出演を依頼した。加えて、ウェールズ代表の人気選手ガレス・ベイルを含む5人が、W杯の期間中にどう過ごすかをテーマとした一連のシリーズCMを制作した。
イタリアのブッフォンは突然パティシエに目覚め、オランダのファンペルシは庭師に、チリのクラウディオ・ブラーボは大量のドローンを購入した。アメリカのティム・ハワードはDJ機材や装飾品を揃えてパーティーを開催し、ベイルはバリカンや散髪バサミなどを購入し、友人のアフロヘアをバッサリカットする内容だ。
このシリーズには続編があり、彼らが思い思いの“休暇”を満喫する動画を、W杯に向けてトレーニングに励んだり、記者会見に臨んでいるフランスのポール・ポグバやブラジルのネイマールに見せつけるかのように送った。その結果、触発されたポグバに至っては遠征先のホテルで、Wishのアプリから大量購入をしてしまうというオチがついている。この一連の映像を通じて、同社がグローバルで展開していること、そしてその商品が驚くほど格安であることが印象づけられる。
Guys back home having fun thanks to Wish ? they’ll see…@GianluigiBuffon @Persie_Official @TimHowardGK @GarethBale11 @wishshopping #TimeOnYourHands pic.twitter.com/7xO7kPhvmx
— Paul Pogba (@paulpogba) June 12, 2018
If you have some free time this summer, @WishShopping can help you find a new hobby
Se você tem algum tempo livre neste dias, @WishShopping pode te ajudar a encontrar um hobby#timeonyourhands@GarethBale11 @paulpogba @TimHowardGK @C1audioBravo @Persie_Official @gianluigibuffon pic.twitter.com/HtW5buXnvJ— Neymar Jr (@neymarjr) June 12, 2018
選手のSNSアカウントを上手く活用
この映像だけでも話題性は十分だが、WishはSNSを戦略的に活用した。すべての出演選手が自身のSNSアカウントで複数回にわたってこのCMシリーズやその舞台裏の様子を公開。「Wishで新しい趣味を見つけて」「ありがとうWish」といった丁寧なコメントとともに発信している。おそらく「CM出演+SNS発信(複数回)」をあらかじめセットにした契約だったことが推察される。
同社は選手の持つフォロワーが有効な拡散ルートと睨み、実際ネイマールが自身のインスタグラムに投稿してから2時間で200万人が動画を視聴したという。またテレビCMとしてもグローバルで展開し、特にイギリス全土をカバーする放送局ITVにおいてイングランドのすべての試合中にCMを放映、その影響もあってか、ベイルが主演する動画はYoutube上で現在までにシリーズ最高の800万回以上再生されている。
今回のキャンペーンについて、Wishは「我々は新参のプラットフォームで、売っている商品もノーブランドで格安のものが多い。だからこそ、サービスへの信頼性、合法性をアピールする必要があった」と意図を語る。一方で、出場を逃した国のサッカーファンにとっては一歩間違えると笑えない可能性もあり、ネガティブな反応も起こりかねないセンシティブな問題も含んでいた。そこで「出演を依頼する選手には1人1人対面で交渉し、我々の意図やコンセプトを理解した上で協力してもらえるよう、企画を慎重に進めた」という。ユニークな発想によるオリジナリティの高いキャンペーンそのものの面白さもさることながら、その拡散方法や選手の巻き込み方などのプロジェクトマネジメントそのものが示唆に富んだ事例ではないだろうか。