・南アフリカの銀行とラグビー同国代表チームのパートナーシップ
・W杯期間に選手への応援メッセージをSNSで募集し、選手が読めるように専用モニターを滞在先に設置
・選手が影響を受けた言葉を紹介する動画を制作し、プロジェクトを盛り上げた(結果的に国営テレビでも取り上げられる)
・知的財産として法律上保護されない、フリーコンテンツの “ファンの声” を活用したアンブッシュマーケティング事例
ファンの応援の声を選手に届ける企画
南アフリカを代表する金融機関ファースト・ナショナル・バンク(以下:FNB)が、2017年から同国のラグビー代表のファイナルシャルパートナーを務めユニフォームの背番号上部に企業ロゴを掲出している。
そのFNBは、日本で開催された2019年ラグビーW杯に出場する代表チームを鼓舞するために、『#WordsOfGreatness(偉大な言葉)』というSNS 上でファンからチームを応援する言葉を集めて選手に伝えるキャンペーンを実施した。
Retweet to opt-in and be part of the Springboks #WordsOfGreatness mosaic. Find your face between all of South Africa’s most passionate supporters and be part of history! pic.twitter.com/z0ch73PkZn
— FNB South Africa (@FNBSA) July 31, 2019
ファンは #WordsOfGreatness のハッシュタグを付けてSNSに投稿するか、世界シェアトップのメッセンジャーアプリWhatsAppで “061 52 BOOKE” の番号にメッセージを送ることで参加できる。集められた応援メッセージは、同社のSNSアカウントで発信されるだけでなく、選手がいつでもチェックできるように専用のモニターを代表チームの滞在先に設置した。
FNB encourages fans to rally behind the Springboks through #WordsofGreatness https://t.co/JJ34WnF2vm #RugbyWorldCup #RWCFinal2019 @FNBSA @Springboks @RugbyFifteen pic.twitter.com/0DLaoEDxuY
— Arrive Alive (@_ArriveAlive) October 31, 2019
また、選手やレジェンド選手が実際に影響を受けた言葉を紹介する動画コンテンツも作成し、参加を促す取り組みも行った。例えば、1994年から1999年にかけて南アフリカの大統領を務めたネルソン・マンデラの言葉に影響を受けた選手のストーリーなどが紹介されている。
南アフリカは1948年から1991年まで続いたアパルトヘイト(白人と非白人を人種隔離する政策)によって、ラグビーのW杯などの国際舞台から遠ざかっていた過去がある。また当時、ラグビーは白人スポーツの代表格として非白人の人々から嫌われていた。しかし、アパルトヘイト撤廃後の1995年に自国でラグビーW杯が開催に至ったことで、マンデラが中心となり「スプリングボックス(南アフリカ代表の愛称)を応援してほしい」と精力的に説いて回った。結果的に、自国開催で初優勝と大躍進し、人種問わず国民が一つになった出来事として語り継がれている。
一見するとファンの声を集めるシンプルなキャンペーンだが、上記のような歴史的背景があるからこそ、FNBの取り組みは国営テレビで紹介されるなど大きなインパクトをもたらした。
代表チームの応援企画型のアンブッシュ
FNBは代表チームのスポンサーではあるものの、大会スポンサーではない。そのため、大会名『Rugby World Cup』の文言や大会ロゴを使用したマーケティング活動を行うことができない。上記で紹介した画像や動画にもそういった文言は使用されておらず、アンブッシュマーケティング要素のある事例といえる。
着目すべきは、知的財産として法律上保護されない、つまりフリーコンテンツの “ファンの声” を活用した応援企画であること。また、同社は”How we can help you? (我々はあなたをどう助けることができるか)”というスローガンを掲げており、選手を後押しするキャンペーンを行うことで、それを体現している。メッセージを伝えてファンと代表チームを繋ぐ架け橋となることで、自社のブランドイメージを高める施策となっている。
代表チーム、または選手個人に支援する企業が、大会の公式スポンサーではないからといって、何もマーケティング活動を行わないとなると、大きな機会損出だ。その点FNBは、SNSを活用した応援企画型のアンブッシュマーケティングを行うことで、大会期間中に自社PRに成功しただけなく、自国での盛り上げに貢献したと言っていいだろう。スポンサードする選手やチームの晴れ舞台でサポートする意味でも、こうした企画が今後も多く生まれていくことを期待したい。