・北米のコンブチャ(健康飲料)メーカーとプロスポーツチームのパートナーシップ
・戦略的に重要な拠点エリア(西海岸北西部)の最大都市(シアトル)を本拠地とする影響力の大きいチームであり、高級商材として狙いたいターゲットファン(富裕層)を多く抱えるNFLチームであるという理由でチームを選定
・スタジアムのメニューに組み込まれたり、チームのトレーニング施設で選手・スタッフに提供
・チーム側にはブーム食品であるコンブチャをメニューに入れ込むことで顧客の満足度を上げる狙いもある
今後市場拡大が見込まれる健康飲料コンブチャ
北米アメリカンフットボールリーグNFLのシアトル・シーホークスは、昨シーズン中に新興飲料メーカー、ヘルス・エイドとのパートナーシップを発表した。この飲料メーカーは2012年に設立されたコンブチャの専門メーカーだ。コンブチャと聞くと日本人はおなじみの塩気のきいた昆布茶をイメージするが、アメリカでは昆布とは全く関係ないもので、紅茶に酵母菌や砂糖などを混ぜて製造される炭酸の発酵飲料を指す。
コンブチャは抗酸化作用や腸内環境を整える効果などが期待されるとして、特に健康や美容の意識が高い人達の間でここ数年ブームになっているのだ。ベースとなる甘酸っぱい発酵茶に様々なフレーバーがブレンドされた商品が次々と誕生。同社の販売するものだけでもリンゴ味やジンジャーレモン味、さらにはハラペーニョ・キウイ・きゅうりのブレンド味など10種類以上のフレーバーが存在する。一般的なソフトドリンクと比較するとやや高額な値段にも関わらず、アメリカではスーパー等では様々なメーカーのコンブチャが並ぶ専門コーナーが常設されるほど人気を集めている。
富裕層ファンを抱えるNFLチームを使って新規顧客獲得を狙う
シーホークスは2015年にNFLチームとして初めて『オフィシャル・コンブチャ』カテゴリーを設けフーム・コンブチャというメーカーと契約した。今回ヘルス・エイドは、フーム社に代わる新パートナーだ。
カリフォルニアに本社を置く同社は、ワシントン州とオレゴン州のあるノースウェストと呼ばれる西海岸北西部に新たな拠点を設けたばかり。そして、同エリアで最大の都市がシアトルであり、知名度向上および新規顧客獲得を狙ってシーホークスとの今回のパートナーシップを決めたという。飲料としては高級な商品を扱う企業にとって、プロスポーツの中で最も富裕層のファンを抱えるNFLと組むことで、自社のターゲット層に効率的にリーチする戦略と見られる。この契約によりSNSを含む各種メディア露出やスタジアム内のキャンペーン実施等の権利に加え、シーホークスのホームスタジアムでは2019-20シーズンから複数のフレーバーのコンブチャが提供され、また選手やチームスタッフが使用するトレーニング施設にも支給されることになった。
実は今、スポーツ界ではコンブチャがトレンドの兆しがある。たとえば、同じくNFLのワシントン・レッドスキンズでもスタジアムのドリンクメニューにコンブチャが採用されていたり、NBAのゴールデンステート・ウォーリアーズでは、選手のトレーニング施設でコンブチャが導入されている。
またNBAポートランド・トレイルブレイザーズは、地元メーカーとコラボレーションしてオリジナルコンブチャを作り、アリーナで提供している。メーカー側としてはアリーナやスタジアムでより多くのファンに手にしてもらうきっかけを作るだけでなく、一流のアスリートらが愛飲する事実を伝えることで健康効果をアピールする絶好の機会となる。
他方、チーム側としてはブーム食品であるコンブチャを提供メニューに取り入れることで、ファンの観戦経験をより豊かにしようとする狙いがある。スポーツ観戦において、飲食の選択肢の多さは観戦体験の満足度に大いに影響する要素だ。すでに多くの富裕層カスタマーを抱えるコンブチャ市場はさらなる拡大が見込まれていることもあり、「コンブチャが飲める」ことは観客へのアピール要素だ。
食品のブームは流行り廃りが激しく一過性で終わるものも少なくないため、何をどこまで取り入れるべきか判断が難しく、二の足を踏んでいるうちにタイミングを逃してしまうケースもあるだろう。中長期的な市場の伸びや顧客層等を多角的に分析し、メーカー側とスポーツ側の双方にメリットのあるパートナーシップのありかたは日本のスポーツ界にも示唆を与えてくれる。