・信用組合(金融)と、地元のプロスポーツチームとのパートナーシップ契約、および、そのチームを代表する選手とのアンバサダー契約
・自社の顧客層(ロサンゼルスで夢をかなえようとする人)の心理とリンクするアスリート(世間の逆風を受けながらも、新天地ロサンゼルスでの挑戦を決意)を戦略的に選ぶ
・選手がCMOとの対談の中で、自身のドラフト指名時の実体験をもとに、金融リテラシーの重要性を訴える


信用組合が地元チームとその看板選手の両方と契約締結

カリフォルニア州ロサンゼルスに拠点を置く信用組合、ファースト・エンターテイメント・クレジットユニオン(以下FECU)は、3月に地元のNBA(北米バスケットボールリーグ)チームであるロサンゼルス・レイカーズと複数年のパートナーシップを締結した。

信用組合とは銀行のようなサービスを提供する業態だが、大きく違うのは特定の地域に住んでいることや特定の企業に勤めている等の条件を満たした会員のみが口座を有することができる点だ。会員が実質の共同オーナーであり、彼らの利益を最大限優先させるため、銀行と比較すると地域性が高いがゆえに支店やATMが少ない等利便性は劣る一方、利子が高く手数料が低いなどのメリットが特徴だ。

FECUはハリウッドに本社を構え創業50年を越える信用組合で、主にエンターテインメント業界の企業約400社に勤める8万5千人以上が加入している。同社はその特性から地域のエンタメ業界との結びつきが強く、かねてから地元の映画祭を支援する活動等を行ってきた。

今回、絶大な人気を誇るレイカーズとパートナーシップを締結することで、これまで以上に地元住民に対する認知向上や好意形成を図ろうとする意図がうかがえる。ロサンゼルスのような大都市は人の入れ替わりも激しい。レイカーズという圧倒的知名度を誇るチームと組むことで、この街に来て日が浅い人や、他の州から来た新規層にも効率的にリーチすることが見込める。

また、このパートナーシップにおいて特徴的なのは、レイカーズに所属するアンソニー・デービスとオフィシャルアンバサダー契約を同時に締結している点である。FECUがアンバサダーを任命するのは同社の歴史上初めてのことだ。彼はNBAオールスターに7度選出され、アメリカ代表として2012年のロンドン五輪金メダルにも貢献した、リーグを牽引する看板選手の1人だ。2012年のNBA入りから昨シーズンまでニューオーリンズ・ペリカンズ一筋でプレーしてきたが、昨季途中に優勝を狙える環境を求めチームに自身の放出を要求。それが賛否両論を呼ぶ大きな話題を集めると、今シーズン開幕前レイカーズに電撃移籍した経緯がある。

企業のターゲット層と選手のストーリーがリンク

夢を叶えるために周囲の反対や逆風を受けながらも新天地での挑戦を決意し奮闘するデービスの姿は、まさにロサンゼルスで夢をかなえようとする人々が自己を投影するにはうってつけな存在だ。FECUはそこに目をつけ、このパートナーシップ発表に合わせて『ALL DREAMS APPLY HERE(全ての夢はここにある)』というプロモーション動画を公開。この中では彼は「人は無理だ、できないと言うかもしれない。でも正しい人から正しいサポートが受けられるのであれば、夢を止める必要はない。ここはロサンゼルス、この街では何にだってなれるんだ」と語る。まさにFECUのターゲット層を象徴するアイコンにふさわしい存在だ。

さらに、デービスは同社CMOとの対談の中で、金融リテラシーの重要性を強く訴えている。自身はシカゴの貧しい地域の出身ながら19歳でドラフト指名された後、数億円の大金が突然舞い込んで戸惑った実体験をもとに「多くのプロアスリートが引退後に破産する現実がある。この職業に就いてから、金融リテラシーは自分にとって非常に重要な関心事だ」と語り、FECUと共同でロサンゼルスコミュニティの金融教育を支援する意思を明らかにした。こうした社会貢献的な草の根活動からも、将来的な顧客獲得の種をまくことが出来る。

今回のパートナーシップ契約は、デービスの真面目な気質やキャリアにまつわるエピソードを含めたストーリーがあってこそ価値がある。ただ有名なアスリートを起用して看板を作るのではなく、自社の顧客層の心理とリンクするアスリートを選び、お飾りにとどまらない活動を展開することが、有効的なスポンサーシップの在り方と言えるだろう。