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インタビュー

川崎ブレイブサンダースの目指すスポンサーシップの形(前編)ーデジタルで抜きん出たクラブへー

©KAWASAKI BRAVE THUNDERS

7月上旬、男子プロバスケットボールBリーグの川崎ブレイブサンダースは、オンラインによるスポーツビジネスセミナーを実施。同じDeNAグループであるプロ野球、横浜DeNAベイスターズの岡村信悟代表取締役社長、川崎の元沢伸夫代表取締役社長がそれぞれの球団、クラブの事業戦略について語った。スポーツチーム自体がこういったセミナーを主催することは時折見られても、参加者を法人対象として行うのは珍しい。そこには現在コロナ禍によって活動にいろいろと制限がある状況においても、スポンサーシップの新規開拓を図るクラブの積極的な姿勢が現れている。そこで今回はセミナー終了後、元沢社長に過去2シーズン連続でリーグ1位となる入場者数の伸び率を達成、さらに先日にはNTTドコモとの資本業務提携を締結するなど、右肩上がりの成長を見せている川崎がこれから目指しているスポンサーシップの形について伺った。

コロナ禍で180度、発想を変えていく必要がある

――まず今回、法人向けにセミナーを開催した理由を教えてください。

川崎ブレイブサンダースはスポンサー様に支えられているチームで、これはきれいごとではなくはっきりと数字に出ています。セミナーでもお話しましたが、スポンサー収入が売上の4~5割を占めており、利益率も高いです。経営基盤として非常に大事である。そして、新型コロナウィルスの感染状況を見ると、一般の方にどれだけ試合会場に来てもらえるか不透明で、チケット販売のためのマーケティングはやりづらい状況にあります。

そう考えると既存のスポンサー様、新規のスポンサーになりえる企業様に早めに僕らの考えているメッセージを伝えたい。そもそも、まだ川崎ブレイブサンダースのことを知らない企業さんが、川崎市の中にもたくさんいらっしゃると思っているので、自己紹介と僕らの存在を知ってもらおう。事業サイドでいうと、スポンサーシップで仲間になっていただきたいとの思いがありました。

――やはりコロナ禍の状況においては、スポンサーシップのやり方もこれまでと違う、何らかの調整が必要と考えていますか。

そこは、ものすごく必要だと思います。それこそ180度、発想を変えるぐらいでないといけない。例えば試合の冠スポンサーはスポーツ業界ですごく人気があり、僕らも昨シーズンの試合は、ほぼ完売した人気商品でした。しかし、これはスタジアムやアリーナに多くのお客さんがいてこそのスポンサーシップです。無観客やお客さんが制限された状態での試合では、商品としては厳しくなってきます。そうなると、アクティベーションのところでどれだけオンライン寄りにシフトできるか、もしくは試合がないときのアクティベーションをどれだけ増やせるか、この2つが戦略的に必須です。逆にここが考えられないと、どのクラブも確実に経営を圧迫すると思います。

――状況が大きく変わっていく中で、川崎が企業にアピールしていきたい部分を教えてください。

一つはデジタルに強いことです。コロナに関係なく、元々バスケットボールはプロ野球やサッカーに比べるとメディア露出が少ないので、オンラインで新規ファン開拓のタッチポイントとして1年前からYouTubeの強化を始めています。実際に今はチャンネル登録者が5万人になっていて、これはJリーグ、Bリーグのクラブの中で上から3番目の規模になっています。登録者を増やせたのは偶然の結果ではないと思っています。そこにはDeNAのリソースが絡んでいます。

DeNA本体でソーシャルゲームなどをPRする手段でYouTubeは以前から使っていました。そして本体のプロモーションチームにYouTubeを上手く使えるプロデューサーがおり、今回は人的資源の共有ということで、川崎のチャンネルにも関わってもらっています。ここはDeNAグループというのも含めて、デジタルには圧倒的に強いスポーツクラブを目指したい。そこからスポンサーさんと今のコロナの影響下で、リアルな試合ではやりづらいですが、オンラインの場であればできることを一緒に実行していきましょう、という話を次のシーズンに向けて始めています。

デジタルアクティベーションにどんどん挑戦していく1年に

――YouTubeなどデジタルコンテンツを通してスポンサーのアクティベーションを行っていく予定ですか。

そのように考えています。これまでの1年はYouTubeにあえてスポンサーを一切付けず面白いコンテンツを作ることに特化してきました。そこからいろいろと知見が溜まり、上手くマネージメントできるようになってきたので、これからの1年はコンテンツ力を落とさずに上手くスポンサーさんの魅力も伝えられるような、アクティベーションとして挑戦していきたいです。例えば、動画の最初に企業ロゴを入れるだけだと、認知はできますがそれが企業さんの商品購入まで結びつけるのは難しい。そこでコンテンツ自体を一緒に作り込むことがあってもよいと思っています。これについては実際にセールスを開始しており、この1週間で1社実施することが決まっています。

また、OVER TIMEというチームの裏側をシーズン中ずっとカメラで追いかけたドキュメンタリー番組も作っています。YouTubeで公開したり、DVDでの販売もしました。このドキュメンタリーについてもスポンサーさんに一緒に作りましょう、と呼びかけ実際に1社決まるなど好調です。このように今まで販売してこなかったデジタルマーケティングの商材をスポンサーさんに提案しています。

――今月末からは、新シーズンに向けた目玉コンテンツとしてオンラインサロンがスタートします。早速、サロンもアクティベーションに活かしていきますか。

今はまだ考えられてないです。オンラインサロンは毎日コンテンツを配信しようと考えていて、大きなチャレンジとなります。今はまだ何がウケて、何がウケないのか分かっていません。僕らが良いと思っても、ファンの皆さんから見たらいまいちだねということはよくあることです。まず、半年ぐらいはコンテンツを磨くことに注力したいと思います。

時代の先のちょっと後をカバーするのがちょうどいい

――川崎さんはいろいろと新しいコンテンツを作り出しています。そういった革新性は、チームのイメージとして意識していますか。
革新性を突き詰めて追っているわけではないです。YouTubeも先鋭的かというと、決してそうではなくて、昔からあります。マーケティング的にいうと芸能人の方が、どんどん増えてくるほんの少し前に始めたくらいです。それに革新性を追うと、ファンの方もスポンサーの方もついてこられないというか、割と独りよがりになってしまう経験があります。スポーツビジネスにおいては時代の先のちょっと後くらいがちょうどいい。YouTubeを1年前に始めたのはちょうどよくて、今から始めるのは少し遅いと思います。また、2年前に始めていたらここまで爆発してなかったとも思いますね。

――バスケットボールのファン層は、野球やサッカーとは異なります。その点はデジタル戦略を推し進めることと関係していますか。

バスケットボールのファン層は男女比が半々で、小学生くらいのお子さんを持つファミリー層が多い。全体的な年齢層も30代が中心でプロ野球に比べると10歳くらい若いという明確な違いがあります。そして、この客層に合わせたファン向けの施策もそうですし、スポンサーさんを絡めたアクティベーションもそのファン層に合わせたものである必要があります。そういった意味でもデジタルとの相性は本当にいいと思います。

――デジタルアクティベーションなら川崎、という評価を確立するために重視するところはありますか。

これからの1シーズンで、明確にそのポジションにたどり着きたい。そしてBリーグの中で最もデジタルに強い、というだけではまだ弱いです。Jリーグや場合によってはプロ野球の半数くらいの球団と比較しても、川崎はデジタルに強いという領域にまで昇華させないと、スポンサーさんに振り向いてもらえないと思っています。そのレベルに達すにはもう1年必要ですし、この1年で絶対にこの位置を取りに行きたいと思っています。

そのためには実際にスポンサーさんを絡めたYouTubeのコンテンツなど、デジタルアクティベーションの成功事例を作ることです。たくさん失敗もするでしょうが、この事例を持っているスポーツクラブは少ないので、それができれば突き抜けられると思っています。

※後編はこちら

ライター:鈴木栄一

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