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インタビュー

リバプールと講談社、これまでにない革新的なパートナーシップで両者が目指すものは

6月下旬、スポーツビジネスの世界で大きな注目を集める発表が行われた。世界中にファンを持つフットボール界のビッグクラブ、リバプールFCが講談社とオフィシャル・グローバル・パートナシップ契約を締結した。これまで数多くの企業とパートナーシップ契約を結んできたリバプールだが、出版社との契約は今回が初めてとなる。

この契約締結を受け、講談社は社内にリバプールの選手や本拠地アンフィールドの写真を使った大掛かりなラッピングを実施。熱心なファンが訪れるなど話題になったのは記憶に新しい。この画期的な取り組みが実現した背景、これからの展望を講談社側の担当者である神谷明子氏に伺った。

グローバル戦略の強化へ大きな期待

――パートナーシップ契約に至ったきっかけを教えてください。

今年4月、講談社はブランドロゴと創業以来の精神「おもしろくて、ためになる」を英語で表現した「Inspire Impossible Stories」を発表し、海外でのブランド力と認知度アップに向けてのグローバル戦略の強化に向けて動き始めました。その議論を進める中で、リバプールとのパートナーシップの話をいただき、その戦略とまさに合致し、契約に至りました。

――そもそも講談社としてスポーツへのスポンサーシップを積極的に行ってきた歴史があるのですか。

『ゲキサカ』というサッカーメディアがあったり、ワールドカップの公式ガイドの制作を手掛けるなど、元々スポーツとの距離は近かったと思います。各メディアがどこかのチームとコラボレーションという例は過去にもあったようですが、事業拡大を目的としたり、会社名を出して協賛したことはなかったです。

――では社内で「なんでスポーツに?」という声が挙がったりはしませんでしたか。

もちろん、最初から全員が賛成だったわけではありません。ただ、この話について社内の様々な部署と議論を深めていくうちに、スポーツはとてつもなくポジティブなメッセージを伝えられるプラットフォームであり、どちらも文化を作り、人々を感動させるという共通点に、パートナーシップを組むことに違和感はなかったです。

――世界屈指のブランド力を誇るリバプールがパートナーシップの相手となったのは、会社としてグローバル展開を大きく推進していくためですか。

まさにその通りです。作品は海外に広まってきていますが、作品の認知度はあっても会社の知名度が不足している課題を抱えています。講談社のロゴを見たら世界中の人がワクワクする、「あの作品もこの作品も講談社なんだ。講談社の作品だから買ってみよう」と海外の方たちにも思っていただくことが目標です。

そのためにこれから海外に講談社の名前を浸透させていくためには、今いるファンの皆さんを中心に増やしていくだけでなく、全く違う角度から見つけてもらうアプローチも必要となってきます。その中で、スポーツファンの方たちに講談社を知ってもらう機会を作ることは、有効な方法だと感じています。

私たちと同じくコンテンツをグローバル市場に投じているプレーヤーを見たときに、例えばマーベルは、個々の作品もさることながらマーベルという出版社自体のブランドも強いです。しかし私たちのこれまでの考えはむしろ、作品のブランド価値を高めることに重点を置いてきました。けれど世界的なコンテンツホルダーとなるためには、講談社の認知度、イメージを高める必要があり、この一連の流れにおいて今回のパートナーシップは大きなステップアップのきっかけになると、社内の期待値はすごく高いです。

会社の認知度を上げると同時に私たちの強みやストーリーも伝えていきたいと考えています。強みの一つに、クリエイターや作家とチームを作って作品を練り上げる編集力があります。海外のアーティストを講談社の編集者が育てて作品を作る、編集力の輸出のようなことができたら、おもしろい作品が世界中に生まれるのではと期待しています。

クラブとのCSRプログラムを通して地域貢献のノウハウを学ぶ

――実際、パートナーシップの締結に向けた交渉を行う中で、印象に残っている出来事はありますか。

このパートナーシップでいいなと感じたことの1つが、クラブから「講談社はどういう問題があって、何を解決したいのか。その課題解決に私たちを活用して欲しい」と話していただいたことです。お金を出せばこんなことができますよ、という話でなかったところが、出版社の思想にも合うと思いました。

――これから様々な活動をしていく中で、まず発表されたのはリバプールFC財団と協力し、リバプールの地元の学生たちを対象にした就業支援を行う「Creative Works」です。この活動の目的を教えてください。

「Creative Works」について、講談社は「本とあそぼう 全国訪問おはなし隊」という全国で読み聞かせをする活動を行っています。そして、漫画賞や文芸賞などいろんな賞を設けてクリエイターの支援を行っています。

そしてリバプールFC財団では、支援が本当に必要な人に必要なモノを届けるためにしっかりしたマーケティングを行っています。これにはすごく驚きました。まずは、地元を大切にされているリバプールの精神、CSR活動のやり方を学ばせていただきたいと考えています。

今はコロナ禍で難しいですが、いずれは社員が現地へ見学や手伝いに行き、その経験を持ち帰って、日本で私たちが行っている活動に生かしていく流れにしていきたいです。社員の意識、目線を変える意味でも「Creative Works」はいい機会になり、地域貢献のノウハウを学ばせてもらえるのは大きな財産になります。

――リバプールからは、どのような効果を期待されていますか。
クラブからは、私たちとのパートーナーシップで新しい表現をできると期待していただいていると思います。アニメ、漫画はメッセージを伝えていく方法として世界でもすごく注目されていますし、また、私たちを通してクラブのよさや魅力を日本国内で広げていくことで、お互いを発展させる可能性を持っていると思います。

講談社がお仕事をご一緒する漫画家や作家を含むクリエイターたち、そして編集者が海外に目を向け、海外の新しい読者、そして才能を開拓できるきっかけになると楽しみです。

ファン醸成のノウハウを少しでも学んでいきたい

――他にホームスタジアムのアンフィールドに講談社さんのコーナーを作ることも発表されていますが、それは人気作品の告知なのか、どんな仕掛けを考えていますか。

そのコーナーもそうですし、マッチデープログラム、スタジアムのLEDなど、ひとつ1つの施策が繋がって大きな物語となるようにしていきたいです。例えば、CSRプログラムで支援したクリエイターの作品がアンフィールドで発表されて、最終的に講談社で本になっていくとか。もちろんにシンプルに作品のPRを行う機会もありますが、このパートナーシップを通していろいろな物語を展開させることです。

この他にもまだリリースはしていませんが、様々な施策を計画しています。一度に全容を発表してしまうと取り組み内容にしか目がいかず、講談社の名前が印象に残りにくいので、数回に分けてリリースしていく予定です。

――最後にこれからパートナーシップが始動するにあたり、意気込みをお願いします。

講談社が掲げている「おもしろくて、ためになる」の活動を、クラブを通してより世界中に広げることができるパートナーシップだと思っています。そして、リバプールは、選手個人の人気に依存するのではなく、クラブとして世界中の多くの人々に愛されている。これは我々が目指すものであります。このパートナーシップを通して、講談社のファンをこれから増やしていくために何が必要なのか。ファン醸成のために核心的なものであり、ノウハウを少しでも学び取らせてもらう機会にしたいです。

ライター:鈴木栄一

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