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スポンサー事例

英大手チョコレートブランドの“損して得取れ”のスポンサーシップ戦略

https://twitter.com/CadburyUK/status/1295269130015318019

・大手菓子メーカーとプロスポーツクラブのパートナーシップ
・コロナで経営が厳しくなったファンに人気の老舗カフェに自社が持つ協賛権益を譲渡。チームとともにカフェの窮地を救う活動を実施。
・地元の起業家や事業者をサポートするために、自社が培ってきたビジネス戦略に関するウェビナーをチームと共同で実施。
・独自性の極めて高い取り組みで話題を生み、地域において注目度とともに、愛着を持たれる。短期的には協賛権益を放棄したように見えるが、長期的には売上向上や、株価上昇に繋がる、という効果を生み出す。


協賛権益を地元企業へ譲渡し、地域経済の活性化を図る

スポーツビジネスを取り巻く環境は、新型コロナウィルスの蔓延で大きな変化を求められるようになった。プロスポーツ興行が行われ、そこに何万という人が集まり、熱狂の空間を共有するという大前提が根幹から覆されたからだ。協賛企業にとっても、これまで当たり前に行っていた競技会場での看板露出やギブアウェイ、サンプリングといった、大勢の来場客が見込めてこそ価値がある王道キャンペーンの見直しが迫られた。

そうした中、独自の視点で協賛権益の有効的な活用方法を見出したのが、イギリスの大手チョコレートブランド、キャドバリーだ。同社は、8月にイングランド・プレミアリーグに所属するアーセナルおよびチェルシーとのパートナーシップ締結を発表した。その際、公表されたアクティベーションの目玉は、驚くべきことにスポンサーの協賛権益をローカルビジネスに譲渡するものであった。

アーセナルの本拠地、エミレーツ・スタジアムの道向かいには、ファンから長年愛されてきた創業100年を超える老舗のカフェがある。コロナの影響で客足は遠のき危機的状況にあったこのカフェを救うため、キャドバリーは自社が保有する協賛権益のメールマガジン、デジタル広告、マッチデープログラムにおける露出枠をカフェに提供すると発表。それだけにとどまらず、同社はカフェの食事クーポン券500部を購入し、アーセナルの地域貢献活動に寄付した。また、この発表後カフェに来店した最初の500人にはアーセナル仕様のキャドバリーオリジナルチョコレートがプレゼントされるおまけもつけられ、カフェのオーナーは「集客・広告宣伝の両面から大きなサポートを受け、店の未来に自信が持てるようになった」と、この上ない感謝の意を表している。

同様に、チェルシーとのパートナーシップにおいてもローカルビジネスへの貢献を宣言し、地元の起業家や小規模事業者を継続的にサポートしていく。振興事業の活性化は地元経済の復興に不可欠であるとして、キャドバリーはチェルシーと共同で、同社が培ってきたブランドマーケティングや販促戦略、また経営分析に関する知識など、特に厳しい環境化において成功するためのビジネス戦略を共有するウェビナーを実施。さらに、そのウェビナーの参加者の中から選ばれた3名には、チェルシー女子チームのホームゲームにおいて、キャドバリーが保有しているピッチサイドの広告枠を譲渡することが明らかにされた。

またプレミアの下部リーグ、カンファレンス・ナショナルに所属するノッツ・カウンティとのパートナーシップでも、やはり地元のバス会社に対して、限定的にユニホームの胸ロゴ枠を提供する。実質5部にあたるカンファレンス・ナショナルでも注目の集まるプレーオフ、テレビ中継も行われる重要な一戦で、その貴重な露出機会を地元企業に譲った形だ。

スポーツ協賛を通じて地域課題の解決をアピール

一見すると高額な投資で得た権利を放棄しているようにも思えるキャドバリーの一連のアクティベーションだが、この戦略はまず第一にクラブのファンだけでなく、広く地元住民の好感を得られる点が非常に優れている。特に、この未曾有の状況で世界中の景気が停滞している中で、まずは地域の問題を解決する企業姿勢を、スポーツの協賛を通じてローカルにアピールすることで消費者の心を打ち、ブランドの差別化に大いに貢献すると考えられる。

そして第二に、独自性の極めて高い取り組みで話題を生むことでメディア露出を増やす。そして認知度の向上に成功したことで、今後展開されてゆく同社のアクティベーションへの注目度や期待感を高める効果もある。ひいては、こうした活動が長期的に同社製品の売上向上に繋がったり、株価を上昇させたりと、結果的に投資対効果を生み出すであろう。コロナ禍というマイナスの環境をプラスに転じさせようというキャドバリーの発想は、スポーツ協賛のあり方に新たな可能性を感じさせる。

ライター:中澤薫

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