- サッカーワールドカップのスポンサー事例
- 大会開始直前になって方針変更、スタジアム内でのビール販売が禁止に
- アクシデントを逆手に取ったキャンペーンを実施したことによるPR効果
大会開始直前になって方針変更、スタジアム内でのビール販売が禁止に
現在、カタールで開催中のサッカーワールドカップは世界随一のスポーツイベントとして大きな盛り上がりを見せている。この絶大な露出効果のある大会には当然のように複数の企業が巨額のスポンサー金額を支払うことで公式スポンサーとなっているが、大会開幕直前になって一大事件が発生した。
スポーツ観戦においてビールは多くの人々が飲んでいる定番アルコール飲料だ。今回も多くの人々が試合前、試合中とビールを飲みながら自分たちの代表チームを応援するのを楽しみにしていた。一方でカタールは敬虔なイスラム教の国家であり、普段はアルコールを飲めるのは一部の高級ホテルやレストラン、バーなどに制限されている。それだけに当初からビールを飲めるのか心配する声が上がっていたが、主催者のFIFA(国際サッカー連盟)はスタジアム内で認められると明らかにしていた。
だが、大会開幕の2日前になってFIFAは基本的にスタジアム内でのアルコールの販売禁止を通達する。ファンゾーンと呼ばれる特設エリアでは引き続き飲酒可能だが、スタジアム内で飲めるのはコーポレイト・ホスピタリティーチケットと呼ばれる1枚2万ユーロ(約290万円)の購入者に限られている。大半のファンが試合中のビールを飲めない状況となったことで甚大な被害を被ったのは公式ビールスポンサーのバドワイザーだ。
販売できずに残った大量のビールを優勝国に寄贈しての祝賀イベント開催へ
バドワイザーを販売するアンハイザー・ブッシュ・インベブは、今回7,600万ドル(約103億8,000万円)の高額スポンサー契約を結んでいると言われている。大会の優勝トロフィーをデザインした特別な缶を販売。他にも『The World is Yours』のキャッチフレーズでメッシ、ネイマール、スターリングの豪華スター選手が登場するプロモーション映像を作成するなど大々的なプロモーションを行っているが、スタジアムで世界各国から訪れるファンに飲んでもらうことが何よりもブランドイメージアップ向上に繋がるはずだった。
それが急転直下の方針変更を告げられたことに対して、アンハイザー・ブッシュ・インベブが不満を表明し徹底抗戦の構えを見せてもそれは理解できるものだ。しかし、同社はそれをせずバドワイザーの公式SNSに販売不可となったビールの山の写真に加え、『勝者はバドワイザーを得る。どの国が獲得するのか』とのメッセージを投稿。さらに優勝チームの地元にこの販売できなかったビールを運んでかつてない規模の祝賀イベントを開催する計画を明かしている。
ビールの販売機会を失ったことに対し、水面下でどうなのかは不明だが少なくとも目立つ形での抗議をせず。さらに大量に余ったビールを優勝国に提供することで、バドライザーはこの一連の騒動で器の大きさを示した。これにより、多くのサッカーファンを中心に大きなブランドイメージの向上を達成できただろう。また、一連の経緯が大きなニュースとなったからこそ、イベントが行われた際には大きな注目を集めることは間違いなく大きな露出効果も見込める。
今回の件は、バドワイザーにとって不慮のアクシデントにしか他ならない。だが、そこですぐに新たな企画を生み出すことでピンチをチャンスに変える発想力や行動力は多くの企業にとって参考にすべきものだ。