・プロスポーツリーグと大手携帯事業会社が復興支援チャリティのキャンペーンを実施。
・選手の活躍(1ホームラン1万ドル)と一般ファンのハッシュタグ投稿(1投稿1ドル)に対して、企業が寄付金を払う。
・スポーツの知名度、人気度を利用したソーシャルグッドな企業活動は、特にミレニアル世代の若年層に対してのコミュニケーションとして非常に有効。
・スポーツ側もこうしたソーシャルグッドな活動を情報発信をすることで、普段はスポーツに興味を示さないファンにアプローチすることが可能となる。
米国携帯事業会社の大手「T-Mobile」が、2017年10上旬から11月上旬に開催された米メジャーリーグベースボール(MLB)のポストシーズンにおいて、ハリケーン復興支援の寄付金額を決めるSNSキャンペーンを実施した。T-MobileはMLBのオフィシャルワイヤレススポンサーを務めている。
このキャンペーンは、ポストシーズン中に選手が打ったホームラン1本につきT-Mobileが1万ドル、一般のファンが #HR4HR というハッシュタグをつけてTwitterに投稿する毎に1ドルを寄付するというものだ。#HR4HR というハッシュタグは、”Home Run for Hurricane” を意味している。
そして、2017年10月24日から11月1日に開催された米メジャーリーグベースボール(MLB)の優勝決定戦「ワールドシリーズ」期間中には、その金額は2倍となり、1投稿につき2ドル、1ホームランにつき2万ドルが寄付された。
最終的には、#HR4HRのハッシュタグがついた投稿数は約77.6万にも上り大きく拡散すると共に、ホームランの分も合わせると合計で約278万ドル(日本円で約3億6千万円)の寄付金となった。集まった寄付金は、プエルトリコ、テキサス州、フロリダ州で起こったハリケーンの災害復興支援を行うNPO団体「Team Rubicon」に寄付された。
WHAT. A. #WorldSeries
Over 650K tweets and $2,500,000 raised for hurricane recovery.
THANK YOU for hitting #HR4HR out of the park! pic.twitter.com/7PpHqL4I1i
— T-Mobile (@TMobile) November 2, 2017
このキャンペーンはMLBファン全体の60%にも認知され、ポジティブなセンチメント(感情)を持ったファンの割合が前月比で24%増加するなど、「バズ」という面でも大きな成功を収めた。
ハッシュタグを活用したSNSキャンペーン
T-Mobileによるこのキャンペーンは、SNSのハッシュタグ機能を効果的に活用している。
#HR4HR というハッシュタグは今回の寄付の内容を端的に説明したもので、企画意図がファンにも伝わりやすく、ハッシュタグをつけてツイートするだけで寄付されるという形がシンプルで参加しやすい。投稿者自身も社会貢献している気持ちになるため、ポジティブに参加できる。
ハッシュタグがついた投稿が拡散すればするほど、ハリケーン被害の大きさの認知拡大に繋がる。また、シーズン終盤を迎えるMLBへの人々の関心も高まるため、災害からの復興問題への啓蒙だけでなく、スポンサーとして大会を盛り上げる役割も果たしている。
このように、ハッシュタグを活用したSNSキャンペーンは、よくある懸賞キャンペーンや販促のキャンペーンだけでなく、企業が社会課題の認知を高めるための1つの方法として活用できる。
社会にいい影響を与える「ソーシャルグッド」
企業が社会をより良くする、社会にいい影響を与えようとする取り組みは「ソーシャルグッド」と呼ばれており、欧米を中心にトレンドとなっている考え方だ。T-Mobileによるキャンペーンも、ハリケーンで災害が起こった地域の支援を目的としているため、ソーシャルグッドな取り組みであると言える。
こうした企業によるソーシャルグッドな取り組みは増えている。その理由は、CSRやCSVの考え方が浸透してきたことで、企業による社会貢献活動がより注目を集めており、そうした取り組みを通して企業のマーケティングやブランディングに繋げることができるからだ。特にミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭に生まれた人々)はこうしたソーシャルグッドに関心が高いと言われており、彼らへのアプローチやブランディングを目的として行う企業が増えている。
T-Mobileの優れた点は、そのソーシャルグッドをスポーツと絡めて実施している点だ。MLBというアメリカの人気スポーツと絡めてキャンペーンを行ったことで、ハリケーン被害の大きさの認知拡大はもちろん、自社のソーシャルグッドな取り組みを大きく拡散させることに成功している。そして一連のキャンペーンを通して、ミレニアル世代を中心としたソーシャルグッドへの関心が高い人々へのT-Mobileの認知拡大やイメージアップを図り、最終的には自社サービスの利用者増加を狙いだ。
ソーシャルグッドとスポーツ
スポーツは多くの人々の関心を集めるため、自社のソーシャルグッドな取り組みを多くの人々に認知してもらう手段として大いに活用できる。
今回のT-Mobileの取り組みは、年々関心が高まるソーシャルグッドを、MLBというアメリカの人気スポーツと絡めた上で、SNSのハッシュタグを効果的に活用してキャンペーンを拡散させるところまで戦略的に考えられたキャンペーンだ。
ソーシャルグッドや社会貢献活動を行う企業は多いが、どのようにその取り組みを知ってもらうか、スポーツやスポンサーシップをどう絡めるかという視点で、T-Mobileの事例は多くの企業の参考になるだろう。これからもスポーツを活用しつつ、社会にポジティブな影響を与えていく企業が増えていくことを期待したい。