・世界的アルコール会社と、プロスポーツリーグ+選手会とのマーケティング契約
・欧米ではアルコール依存症が社会問題で、長年酒類の広告への選手の出演はリーグが消極的だった(しかし、NBAは選手の肖像管理が選手会に移り、企業が選手会とマーケティング契約も締結し、選手の広告出演が可能に)
・引退するスター選手の人間性を称えるCMを作成(選手がメインで、商品は一切登場しない)
・多くの共感を呼びCMは一部地域のTVで放送されるのみだったが、ニュースやyoutubeを通じて全世界に広がった


ウェイドに影響を受けた5人が登場、見る者の共感を呼ぶ

北米バスケットボールリーグNBAのオールスターゲームに13回選出され、3度リーグ優勝を達成したドウェイン・ウェイドが2018-2019シーズンを最後に引退した。所属するマイアミ・ヒートのホーム最終戦にあたる4月9日、NBA公式スポンサーであるビールブランドのバドワイザーは彼に敬意を表するCMを公開。試合会場とマイアミ地域で放送されたが、その内容がとても感動的であると大変な話題となった。

4分にわたるCMの内容は、何も知らされていないウェイドがコートに立って待っている中、彼によって助けられた5人の人物が順番に登場し、感謝の言葉と共に彼らが大切にしている洋服をウェイドに手渡すものだ。これは、ウェイドがアウェーで相手チームの選手と自分のユニフォームを交換していたことにちなんでいる。

最初に登場したのは、火災で家が焼け全てを失った時に、家族へのクリスマスプレゼントが買えるようにと彼から1,000ドル(約11万円)の寄付を受けた女性だ。他には彼から奨学金を受けて大学へ進学できた女性、彼のバスケットボールキャンプに参加したことで影響を受け就職を果たした男性が現れた。また、ウェイドは銃乱射事件が起きたさいに、犠牲者の一人で彼のファンだった少年の名前をシューズに記入して試合に臨み、哀悼の意を示していた。その少年の姉が現れ感謝を述べている。

そして、最後に現れたのはウェイドの母親だ。彼女は彼が幼い頃に薬物依存症で刑務所に服役経験もあるのだが、彼が支え続けたことで牧師の資格を取るまでに更生を果たしている。彼女は自身の聖職者用ローブを手渡し、「私はバスケットボール選手としてのあなたより、人としてのあなたをとても誇りに思っている」「あなたはバスケットボールより偉大だ」と語りかけた。このCMはコート上でも偉大な選手であるウェイドが、コートの外でもいかに気高い行いをしてきたかを表現している。Youtubeでも約500万回再生されている。

商品PRではなく、登場人物に焦点を当てる

アルコール依存症が大きな社会問題であるアメリカでは、アスリートの酒類への広告出演はリーグ側が禁止するなど消極的な姿勢を示していた。しかし、NBAでは選手の肖像権やブランド契約の管理がリーグから選手会に移ったことで、昨年9月にバドワイザーを所有するアンハイザー・ブッシュ・インベブは選手会とマーケティング契約を締結した。これを機に選手を起用した広告を作成できるようになったが、どんな内容となるのか注目されていた。

日本で酒類のCMにアスリートが登場する際、実際に商品をおいしそうに飲む姿を入れるのが一般的だ。ただ、アメリカにおいては上記のような社会的背景から例え選手の出演が解禁となっても、日本のような作品はない。

バドワイザーは他にもNBA選手が出演したCMを作成しているが、それはクリスマスシーズンに飲みすぎ防止として、水と一緒に飲もうという啓蒙だった。複数の選手が出演しているが、水を飲もうと訴えていて彼らが飲んではいない。(詳細は下記の関連記事にて)

このCMはウェイドの誠実な人間性が伝わる内容で多くの共感を呼ぶことで、実際に流したマイアミ地域だけでなく全米、そして世界中のNBAファンにも広がっていった。アスリートを商品と絡めなくても、むしろ商品と絡めなかったからこそ、名作としてブランドイメージを高めることに成功した代表例と言える。

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