・大手動画配信会社が国際スポーツイベント期間中に行ったアンブッシュマーケティング
・匿名で自社の配信サービスを見るなという広告を打ち、後日広告を打ったのは自分たちだと明かす内容に差し替えた
・暗に配信サービスを見ないでスポーツイベントを観戦するよう命じており、命令されると反発したくなる心理を逆手に取った戦略
街中に「Netflixを見るな」と命令する広告を匿名で掲出
世界が注目した2018年のロシアサッカーW杯期間中、サッカー大国であるアルゼンチンではその状況を逆手に取ったプロモーションが展開され話題を呼んだ。それはインターネット動画配信事業社のNetflixが行った大規模な広告キャンペーンだ。
言うまでもなく、アルゼンチンでサッカーは国民的スポーツとして愛されており、4年に1度のサッカーの祭典に人々の注目が集中する。そこで、どうしたらサービスを見てもらえるか、人々の話題になるか、考えた末に“ルールに従うことが嫌い”という人間の心理を逆手に取った戦略を展開した。
同社はあえてアルゼンチンの街中に「Netflixを見るな」と匿名のメッセージをばらまいた。街角のポスターからビルのラッピングまで、大小いたるところに展開された広告は人々の目に留まり、狙い通り命令されたくないと猛反発する声がSNSで噴出。Twitter上ではユーザーの投稿中にNetflixのアカウント名が約7500回登場し話題に上った。彼らはメッセージの発信者を知らないため、W杯を放映するTV局や政府の陰謀だといった憶測が飛んだという。
その5日後、Netflixはあのメッセージを発信したのは実は自分たちであることを告白する動画を公開すると同時に、街中の広告を「Netflixを見るな」から「私たちを見るな」のメッセージと配信している動画コンテンツを使った広告にすり替えたのだ。するとこれが再び話題を呼び、こうした一連の話題が世界中に拡散され、Twitter上で少なくとも7,300万インプレッション(投稿が表示された回数)に達したという。当然SNSだけに留まらず、アルゼンチン国内のテレビや新聞、ラジオなどでも多数取り上げられる結果となった。
同社はW杯のオフィシャルスポンサーではないため、大会に関連するロゴや肖像はもちろんのこと、『W杯』の単語自体を含むあらゆる権益の使用が許されない。そうした制限の中で、当該イベントを間接的に活用する戦略をアンブッシュマーケテイングと呼ぶが、今回のプロモーションはまさにアンブッシュの好例と言えるだろう。ダメと言われるとしたくなる、誰もが身に覚えのある心理を逆手に取った非常に面白い広告戦略であった。