・オーディオブランドが世界的スポーツイベントに乗じてアンブッシュマーケティングを実施
・プロモーション動画に有名選手が登場するだけではなく、監督に有名映像作家や、BGMをグラミー賞ア―ティストを起用し高クオリティの動画を制作
・高品質のCMで他社と差別化し、ブランディングを図る
ロシアを連想させる動画でアンブッシュキャンペーンを実施
アップル傘下の世界的オーディオブランド、ビーツ・バイ・ドクタードレが、2018年にロシアで開催されたサッカーW杯に合わせてキャンペーンムービーを公開した。同社は“b”のロゴマークが印象的なヘッドフォンが有名で、比較的高額な価格帯にもかかわらずアメリカでは機能性の高さもさることながら、ファッションアイコンとして絶大な人気を誇っている。同社のプロモーションはクリエイティブの質の高さが特徴で、CMには北米バスケットボールNBAのレブロン・ジェームズや北米アメリカンフットボールNFLのトム・ブレイディなど国民的スターアスリートを起用し、洗練されたブランドイメージを確立してきた。
そんな同社がW杯のタイミングでアンブッシュキャンペーンを仕掛け、『Made Defiant(生来の反骨者)』と題されたミックステープムービー(複数の楽曲をDJが繋ぎ合わせるヒップホップの手法)を公開した。同社は大会公式スポンサーではないため直接的にW杯の名称等を使うことはできないが、ロシアを連想させるストーリーの作り込みで大会の盛り上がりに便乗。公開された作品は、ロシアのサッカー少年がネイマールを始めとする世界的スター選手らに感化され、ピンチに立ち向かう葛藤と決意を表現したものだ。
ただ、大会開催地を舞台に象徴的な選手を起用するキャンペーンというのは典型的なアンブッシュの発想であり、それだけでは膨大なW杯関連キャンペーンの中で埋もれがちだ。
独創性の高いクリエイティブで一線を画す
そこで同社が選んだ方法は、徹底的にこだわりぬいたクリエイティブで他社との決定的な差別化を図ることで、ブランドを強く印象づける作戦だ。監督に起用されたのは、2019年公開され話題となった実写版映画アラジンやキング・アーサーなどを手がけ、独特な作風が魅力とされるイギリス人映像作家、ガイ・リッチー。作品のナレーターは同監督作品にも出演したイギリスの有名俳優が務めた。
また、ミックステープに重要なBGMにはグラミー賞アーティストのアンダーソン・パークなどの曲を起用している(2019年にグラミー賞受賞)。なお、彼の才能はこのヘッドフォンの生みの親でもあるヒップホップ界のレジェンド、ドクター・ドレーが見出したことでも知られており、この商品のキャンペーンに彼を起用する組み合わせは同社のターゲットである音楽ファンを唸らせたことだろう。
「困難をチャンスに変える瞬間。このストーリーはその瞬間の話だ。」
ロシアに旅立つ4人の選手。彼らがここまでやってこられたのは、自分を信じ続けてきたから。ガイ・リッチー監督の Beats オリジナルムービーを今すぐチェックしよう✔︎ #異彩ヲ放テ @neymarjr @MesutOzil1088 @HKane @benmendy23 pic.twitter.com/vvJ4KKy2Rr
— Beats by Dre Japan (@BeatsbyDreJP) June 8, 2018
さらに出演者も豪華で、イギリス、フランス、ドイツ、そしてブラジルのスター選手を主役に置きながらも、元フランス代表のティエリ・アンリや同社の広告塔としてお馴染みのテニスプレイヤー、セリーナ・ウィリアムズらも一瞬カメオ出演している。当然ながら出演者達はさりげなく同社のヘッドフォンやイヤホンを身につけているのだが、面白いことにこの約4分間のCMの中で商品の機能や特徴に言及する場面は一つもない。それにもかかわらず、同社のイメージが強く残る作品になっている。
W杯やオリンピックなどのメガスポーツイベント前後は、それに絡めたキャンペーンが世界中で多発する。公式スポンサーであれ、アンブッシュであれ、せっかくリソースをかけてCMを制作しても記憶に残らない、あるいはCM自体は覚えているがそれが何の会社だったか分からない、ということもあり得る。独創的で洗練されたクリエイティブに加え、話題性のある制作チームの起用で他と一線を画す同社のブランディング手法は、差別化という目的に対して一つの明確なアプローチを示している。