・全米をマーケットにした保険会社とマイナーリーグのパートナーシップ
・NFLは全米を対象にした認知度向上施策、NHLチーム・州立大学チーム・ゴルフ大会は本社所在地域であるオハイオ州を対象にした地域貢献活動、といったような綿密なスポンサーシップ戦略を設計
・地方の田舎都市にも点在するマイナーリーグでは、来場する観客に対して、中小企業向け、ペット向けの保険商品のプロモーションをして顧客開拓を行う
全米最大手の金融保険会社、ネイションワイドがマイナーリーグとパートナーシップ
新型コロナウィルス感染拡大により、スポーツ界ではあらゆる大会が延期、もしくは無観客での実施への変更を余儀なくされている。当然ながらその結果、すでに内容が決まっていながらキャンセルとなったスポンサーアクティベーションが数多く存在する。今回はその中で興味深い取り組みであったアメリカ随一の規模を誇る金融保険サービス企業ネイションワイドが、北米プロ野球リーグMLBの下部組織マイナーリーグベースボール(MiLB)と締結したパートナーシップを紹介したい。
昨年12月に発表された内容によると、ネイションワイドはMiLBの公式保険パートナーとなり、全米各地の100以上のマイナーチームにおいて同社の広告掲出など宣伝ができる。さらに中小企業向けの『Small Business of the Month, Presented by Nationwide』、ペットの飼い主向けの『Pet of the Month, Presented by Nationwide』といった月単位で、全てのマイナーリーグチームを対象にしたイベントが計画されていた。また、一部の地域において、コミュニティーに貢献している地元保険代理店を試合中に紹介する取り組みも行う予定だった。
ネイションワイドは全米でビシネスを展開している大企業だ。それにも関わらず、メディアの露出も低いMiLBへのスポンサーシップをなぜ行うのだろうか。まず、同社のMiLB以外の活動を見ていくと、全米一の人気スポーツであるアメリカンフットボールNFLのスポンサーを務めているのは有名だ。他にはアイスホッケーのNHLコロンバス・ブルージャケッツ、オハイオ州立大学、MLBクリーブランド・インディアンス傘下のマイナーチームであるコロンバス・クリッパーズと、本社を構えるオハイオ州を拠点とするチームが続く。また、男子プロゴルフツアーPGAのザ・メモリアル・トーナメントのスポンサーも務めているが、こちらのコースはオハイオ州ダブリンと地元大会だ。
このように知名度向上の露出はNFLで行い、さらに地元オハイオ州ゆかりのチーム、イベントをスポンサーとして支えるCSR活動を実施。これだけでスポーツ業界におけるスポンサーシップは十分なように思われるが、その上で新たにMiLBのパートナーとなったのには次のような理由が考えられる。
メジャーではなく、マイナーだからこそやるべきアクティベーションもある
まず、保険ということで、マーケットは全米のあらゆる地域が対象で草の根の活動も必要となる。そうなると露出効果は大きいが大都市にしかチームがないNFL、MLB、NBA、NHLといったメジャースポーツと違い、マイナーリーグは各チームの媒体効果は小さいが、それこそ人口数万人の田舎にも存在していて、文字通り全米各地の様々な人々に向けて告知できるのは大きい。
また、本来なら行う予定だった『Small Business of the Month』、『Pet of the Month』のイベントは、まさにマイナーリーグのチームだからこそ実現すべき内容だ。中小企業の関係者は大都市ではなく、マイナーチームがある地方都市の方が比率は多い。また、ペット同伴の観戦イベントも渋滞の多い大都市より、そもそもの交通量が少ない地方の小さな都市の方がペットを連れて車で行きやすい。
このように地方都市だからこそ集めやすい2つの客層に特化したイベントを全米各地で、1ヶ月のスパンで実施する。そこでネイションワイドは来場した観客に中小企業向け、ペット向けの保険商品をそれぞれ効率よくPRすることができる。これは同社にとって、新規の顧客開拓が大いに期待できる。
全米規模の知名度を誇るビッグクラブではないスポーツチーム、イベントにもそれぞれの魅力がある。画一的ではなく、クラブやリーグの特徴に合わせたアクティベーションを行なっているネイションワイドは、そのことをしっかり理解して実行している代表的な企業だ。
【ネイションワイドの事例記事】
・米保険会社が、NFLを通して行う積極的な社会貢献活動
・ネイションワイド、NFLドラフトでのマーケティング戦略