・スポーツメーカーが女子競技の国際スポーツイベントで行ったアンブッシュマーケティング
・サプライヤーを務めるチームユニフォームを、開催地(パリ)にちなんでファッションショー形式でPRイベントを実施
・女子サッカーを通して、性別格差の是正や女性の社会的地位向上といった社会課題解決の姿勢を取ることで世の中の注目を浴び、ユニフォームの売上が増加
出場24ヵ国中14の国のユニフォームサプライヤーに
今年6月7日から7月7日にかけてフランスでサッカー女子W杯が開催された。ナイキは出場した24ヵ国中14の国のユニフォームサプライヤーを務め、契約する代表チームを起用し様々なマーケティング活動を実施していた。しかし、大会公式スポンサーはアディダスが務めており、ナイキはW杯やロゴを使用することができない。必然的に、今回のプロモーションはアンブッシュマーティングであった。
各国の新ユニフォームをパリのファッションショーをモチーフに紹介
ナイキはこれまでも女子代表チームにユニフォームを提供してきたが、男子代表用を、女子用にサイズ変更したものがほとんどだった。しかし、今大会では女子用に一からデザインしたものを開発している。
新ユニフォーム発表会は3月11日にパリで行われ、女子サッカー選手だけでなく、リオ五輪で体操競技金メダリストのシモーネ・バイルズら、40人以上の女性アスリートが出演した。また、このショーはスポーツウェアやシューズ、スポーツ用下着のお披露目も同時に兼ねている。開催国フランスが本場の1つとして知られるファッションショー形式で披露することで、大会を視聴者にイメージさせることが狙いだろう。
女子サッカー選手をサポートする姿勢を明確に
さらに、ナイキは大会時期に合わせて公開した2つの動画が大きな注目を集めた。1つ目は開幕1週間前の6月1日に公開された『Dream Further(はるか先の夢)』だ。これは、エスコ―トキッズの少女が、各国女子代表選手と共に試合中のコートを駆けたり、取材に立ち合うなどトップアスリートの体験する内容で、少女の夢を応援するものとなっている。
もう一つの、『Dream With Us(私達と一緒に夢をみる)』は1か月前の5月12日に公開された。内容はアメリカの様々な競技の女子アスリートたちが登場し、「ヤンキースでプレーする最初の女子選手になりたいか」、「性別の不平等を終わらせる世代になれるか」と男女格差について問うナレーションが流れる中、全員がスタジアムに集まりアメリカサッカー女子代表チームの試合を見つめているというものだ。
アメリカ代表は、今年3月に男子代表と比べて給料やボーナスに差があると同国サッカー連盟を提訴し、男女平等を求めて行動を起こしている。こうした背景から、女子代表は男女格差是正の象徴としての役割を担う存在としての強いメッセージを持っていた。
アメリカ優勝後にナイキのTwitter公式アカウントから投稿された動画には、優勝を讃えると共に、「このチームの勝利はみんなの勝利だ」とメッセージを載せ、ファンはもちろん代表チームの格差是正を示す姿勢に賛同した人々にとっての勝利でもあると訴えた。
This team wins. Everyone wins.
Victory is when we all win. It’s only crazy until you do it. #justdoit @USWNT pic.twitter.com/pBU7UE2IEs
— Nike (@Nike) July 7, 2019
一連の取り組みではナイキが女子サッカーの支援を通して性別格差を是正し、女性の社会的地位の向上に貢献する姿勢を示している。同社がここまで女子サッカーをサポートする目的は、この問題に関心が高い人々へアプローチし、自社のブランドイメージを高めることで、ユニフォームの売り上げを向上させることだろう。実際に前回の2015年大会と比較すると、大きく増加しており狙い通りの結果となっている。
また、W杯など直接的な言葉を使用せずとも、大会開催地と関連づけることで、関係性を想起させている。さらには社会的課題とも結びつけることでより深い取り組みとなっており、アンブッシュマーケティングとしても優れていると言えよう。
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