前編に続き、後編は全米オープンが開催された「USTAビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニス・センター」でのスポンサーアクティベーション活動を紹介する。
前編でも紹介した通り、全米オープンのオフィシャルスポンサーは全部で12社、オフィシャルサプライヤーは8社となっているが、その中でもアメリカン・エクスプレス、チェースは特に会場で盛んにアクティベーション活動を行っている企業であった。アメリカン・エキスプレスは今年でアメリカテニス協会(USTA)とのパートナーシップ契約が25周年、チェースは37周年となり、いずれも長期間アメリカのテニス界を支えてきた存在である。今回は、この古株スポンサー2社の取り組みについて紹介していく。
American Express(アメリカン・エキスプレス)
アメリカン・エキスプレスは、前述したとおりUSTAとのパートナーシップが25周年という節目の年となったため、広範囲で大規模なアクティベーション活動を行っていた。全米オープンの会場で、一番目立っていたスポンサーと言っても過言ではない。アメリカン・エクスプレスが取り組んでいた主な3つの取り組みについて紹介する。
- Amex Band(アメックス・バンド)
アメリカン・エキスプレスは、エンド・ツー・エンドのファンエクスペリエンスを強化するため、非接触型決済リストバンドであるアメックス・バンドを会員に提供していた。会員は、レジにある専用端末にリストバンドをかざすだけで、購入することができる。
このバンドは、アメリカン・エキスプレスが設置している「American Express Fan Experience」の会場で受け取ることができ、100ドル以上購入すると20ドルお得になるキャンペーンも行っていた。
アメリカン・エキスプレスは、このような先進的、革新的な購入体験を、顧客が好むイベントで経験してもらうことで、ペイメントブランドとしての価値を高めていきたい狙いがある。
- ポロ・ラルフローレンとのコラボレーション
ユニークな取り組みだと感じたのが、ポロ・ラルフローレンとのコラボレーション企画である。上記のアメックス・バンドを使うと、ポロ・ラルフローレンが販売している全米オープンの商品(ポロシャツ、トートバッグ、水筒)をカスタマイズすることができる。
このように、会場内でスポンサー同士のコラボレーション企画を行うことで、ファンにとってより魅力的な取り組みを行うことができ、グッズの売上にも貢献することができる。
- Super Rally(スーパー・ラリー)
アメリカン・エキスプレスは、広告代理店のモメンタム・ワールドワイドと協力して、インタラクティブなテニス体験ができるスーパー・ラリーを設置した。透明なモニターの前に立ち、3Dプリントのラケットを使用し、バーチャルなテニスボールを打ってポイントを獲得していくゲームである。
実際このゲームには来場している多くの子供が親と列をなしており、アメリカン・エキスプレスは、こうした最新のテクノロジーを活かした魅力的なアクティベーション活動を行うことにより、若い世代へのリーチを試みていることが伺える。
Chase(チェース)
チェースはニューヨーク・マンハッタンを拠点とした金融機関であり、過去36年にわたって全米オープンを支援してきた。チェースもアメリカン・エキスプレスと同様、世界各国から来場するファンに向けて認知度を高めていくため、至る所に露出を行っていた。アメリカン・エキスプレスの行っていたアクティベーション活動は会員のみが享受できるコンテンツを用意していたが、チェースは非会員に対しても取り組みを行っていたため、両者の活動方針が異なることが分かる。今回は会員に対するアクティベーション活動、そして来場者全員に対するアクティベーション活動を紹介する。
- Chase lounge(チェース・ラウンジ)
チェースは会員向けに、会場に専用ラウンジを設置し、ラウンジ内で飲み物やスナックを楽しむことができるようにしている。事前に予約をしておくことも可能で、ラウンジへ入場するために待つ必要もない。
会場は基本的に屋外であり、開催期間が真夏で大変暑いため、このような涼しいラウンジを利用できることで、チェース会員であることの誇りを醸成することができる。
- Chase Charge and Watch
チェースは、会場で必須となるスマホ充電器を提供した。このデバイスは充電できるだけでなく、接続している間ライブストリーミングの受信機としても機能する。
全米オープンの観戦では、ほぼ丸一日滞在することになるため、充電器は必須アイテムとなる。このデバイスは会員以外の来場者にも提供されるため、海外、地方からの多くの観客に対しても、チェースブランドを露出する狙いがあると思われる。
上記で紹介したアクティベーション活動はごく一部であり、会場では他のスポンサーによって様々な取り組みが行われていた。前編でもお伝えした通り、観客は高所得層が多く、他国、地方からの来場が多いため、そうした特徴を捉えて誰にとっても魅力的だと思えるような取り組みがなされていた。
現在のところ、日本ではこのような世界各国から観客が来場するようなスポーツイベントはないが、2年後には東京オリンピック・パラリンピックというビッグイベントを控えている。約70万人が来場する全米オープンとは比較にならない、約1,000万人が東京に訪れると予想されているため、スポンサー各企業がアクティベーション活動を行う絶好の機会である。東京オリンピック・パラリンピックまであと2年だが、各スポンサーにはそれまでにこうした取り組みを参考に、露出にとどまらないユニークで魅力的な取り組みを実施してほしい。