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アンブッシュ概要

スポンサー契約は、マーケティングの1つの手法に過ぎない

アンブッシュマーケティングというと日本ではとかくネカティブなものと見られがちである。しかし、スポーツビジネスの本場である欧米では、アンブッシュはむしろスポーツイベントを盛り上がる1つの要素として定着すらしている。日本のアンブッシュマーケティングについての湾曲された見方を変え、各企業がどのように捉えていくことがそれぞれの企業、そしてスポーツ界全体の発展につながっていくものなのか。オフィシャルスポンサー案件、非スポンサー案件双方のスポーツビジネス法務を多く手がけている早稲田大学スポーツ科学学術院准教授・弁護士の松本泰介氏に伺った。

取扱分野はスポーツビジネス法務、スポーツガバナンス。
主な経歴は、日本プロ野球選手会監事、日本スポーツ仲裁機構スポーツ団体のガバナンスに関する協力者会議委員、日本スポーツ仲裁機構将来構想検討委員会委員など

アンブッシュ=すべて悪ではない

まず、日本ではアンブッシュマーケティングという言葉自体が邪道というイメージがものすごく先行していて、みんなやってはいけないものと思っています。ただ、企業がマーティング活動をしていく上で、スポーツでいえば公式スポンサー契約を結び、スポーツイベント主催者などコンテンツホルダーが持っているオフィシャルコンテンツを使っていくのは選択肢の1つに過ぎません。それが全てではありません。海外では、パラレルマーケティング、スマートマーケティングなどと呼ばれ、スポンサーとならず、フリーコンテンツを使ったマーケティングをやる様々な実例があります。

しかし、日本では、しっかりと線引きせずにアンブッシュといわれそうなものは全てダメ、オフィシャルスポンサー以外はダメとなりがちなのが実情です。法的には知的財産権を侵害しなければ大丈夫なのですが、日本は法律以上に、突飛なことをしない方が無難で、マーケティングにおいても競合他社との同質性を意識しがちという面もあるかと思います。

もちろんスポーツイベントロゴ、商標の無断使用など違法なアンブッシュマーケティングは、絶対に避けなければなりません。ただ、そうでないやり方はたくさんあります。私が強調したいのは、スポーツイベントでアンブッシュをやりましょうというより、スポーツマーケティングには色々なマーケティングのやり方があり、オフィシャルコンテンツを利用するマーケティングと別に、オフィシャルコンテンツではない、スポーツイベントに関係するフリーコンテンツを利用したマーケティングもあるということです。企業にとっては、オフィシャルコンテンツを利用するマーケティングも、スポーツイベントに関係するフリーコンテンツを利用したマーケティングも両者をフェアにみて、どちらが自分たちに有益かを検討する必要があるでしょう。

そのためにもまずは、アンブッシュは全て黒という認識が誤っていることに気づく必要があります。実際、日本人も知っている海外の名だたる企業が、合法的なアンブッシュをずっとやり続けてきている歴史があります。また、ワールドカップなどメガスポーツイベントを協賛している企業もずっとオフィシャルスポンサーを続けているわけではありません。その時のマーケティングとして価値が高いと判断したらオフィシャルスポンサーをやる。そうでない場合は、公式スポンサーを平気でおります。自分たちが使い勝手のよいスポーツイベントだったらやるし、使い勝手が悪いとしない。その両方の選択肢を常に考えて行動しています。

企業にとってスポーツは利用対象に過ぎず、どのように利用するかは企業の自由であるにもかかわらず、日本では、コンテンツホルダーがオフィシャルスポンサー以外はすべて悪であるという情報を発信し続けていることはかなり傲慢な姿勢とも思います。

アンブッシャーもスポーツイベントを盛り上げてくれる協力者

海外では、合法なアンブッシュマーケティングをする企業は盛り上がりを作ってくれる協力者として見られています。スポーツイベントの核は主催者が作りますが、今で言うなら、にわかファン向けのマーケティングは、非スポンサー企業がどれくらい乗ってきているかにもかかっています。

そして、主催者は知的財産権の侵害や法律違反以上に権利行使をできないことも理解しているのでビッグイベントがある時、アンブッシュマーケティング対策として日本のように合法なものまで一切禁止するガイドラインを示すことは例外的です。むしろ1つの盛り上がりという中で放置されています。そこには全体が盛り上がることで、核となるコンテンツホルダーによるマーケティングもより盛り上がる。そういう発想もあると思います。また、主催者にとってアンブッシャーも将来的には自分たちのスポンサーになる可能性がある1つの企業という認識であり、闇雲に厳しくすることが得策ではないことを分かっています。

また、企業が忘れてはならないのは、オフィシャルスポンサーだからこその制約もあることです。例えば、オリンピックを活用したマーケティングについて、全てIOC(国際オリンピック委員会)の許諾を取らないといけないので、文言のひとつ1つまで細かくチェックが入ります。そこは自由度が全く違います。

最近は、日本企業でもスポーツイベントに関連するフリーコンテンツをうまく使ったマーケティングをやるようになりました。ただ、多くの日本企業は、オフィシャルスポンサーでないとスポーツイベントに絡めたプロモーションをやらないようにする自粛意識を感じるところもあります。エッジをきかせた主催者に喧嘩を売るようなアンブッシュをやる必要があるとは思いませんが、さすがに、ここくらいまではできますという工夫は色々とあるので、オフィシャルコンテンツに頼らないマーケティングの1つとしてご相談に応じることが増えています。

<アンブッシュマーケティング概要>
#1 アンブッシュマーケティングとは
#2 ラグビーW杯非スポンサー企業、アンブッシュを駆使してイングランド代表の壮行会を実施
#3 アンブッシュマーケティングの合法と違法の境界線
#4 スポンサー契約は、マーケティングの1つの手法に過ぎない
#5 オリンピックで把握すべきルール40とは
#6 オリンピック東京大会におけるルール40はどうなる?最新情報
#7 オフィシャルスポンサーでなくともできる広告活動の実例紹介
#8 ラグビーW杯とアンブッシュマーケティング
#9オリンピック東京大会におけるルール40を解説ー非スポンサーにできることー

ライター:鈴木栄一

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