今回はアンブッシュマーケティングの実例について紹介する。来年の東京五輪にも関連してくるイベントを取り上げる。

平昌冬季五輪で壮行会がメディア公開禁止に

五輪は国民的スポーツイベントであり、選手の所属企業だけでなく、出身校や地元自治体も応援する模様がメディアに取り上げられてきた。しかし、かつては定番だった壮行会の模様が、2018年に開催された平昌冬季五輪ではニュースにはならなかった。それは、日本オリンピックパラリンピック競技委員会(JOC)がメディア公開禁止の指針を各所に伝えたことが背景にある。

では、何故JOCはこの措置をとったのか、そこには東京五輪を前に五輪の知的財産保護の姿勢をより強調する狙いがあったと推測できる。五輪、パラリンピックにおける知的財産としては5つの輪で知られる五輪マーク、大会名称、エンブレムなどがあり、これらは日本国内で著作権法、商標法、不正競争防止法などで保護されている。そして、JOCは莫大な契約料を支払っている公式パートナーの企業に対してのみ、これらの知的財産を利用してのマーケティング活動を認めている。

東京五輪はこれまでの五輪と比べても大きな盛り上がりとなることは間違いなく、壮行会も大きな告知効果を持つ。それは相対的にいうと、スポンサー企業のメリットを減少させることになるので、公開禁止を要請するのはJOCの視点としては妥当な部分もある。

ただ、長年にわたって代表選手を支援してきた企業が、大々的に応援できないのは大会の盛り上がりに水をさすものとなる。五輪という一番の晴れ舞台で、自分たちが支援していることをPRできないとなれば、選手の支援に及び腰になる企業が出てもおかしくないといったマイナス面も考慮すべきだ。

壮行会は企業にとっては、自分たちが選手、チームをサポートしていることをより効果的にPRできる絶好の機会。そのため、大会名などを使えないからといってイベントを開催しないのは大きな機会損失と考えてもおかしくないだろう。

そんな中、今回紹介したいのはイギリスの携帯電話会社O2が実施した、日本で開催中のラグビーW杯に出場するイングランド代表に関するアンブッシュマーケティングの事例だ。O2は20年以上に渡ってイングランド代表のパートナーを務めている。そして代表チームのエンブレムが赤いバラであるところから『Wear The Rose』(バラをみにつけよう)というキャンペーンを長く展開している。

ラグビーイングランド代表の壮行会にあたるイベントを開催

しかし、O2は現在、2019年W杯の大会スポンサーでないため『ラグビーワールドカップ2019』といった大会に関連する言葉を使用できない。そこで同社が行なったのは、『Wear The Rose Live』とい名付けたイベントだった。これはエディー・ジョーンズ監督を筆頭にイングランド代表メンバーが勢揃いし、ファンの前で決意表明を行うもので、内容が壮行会であることは間違いない。ただ、ラグビーW杯に関連するフレーズは一切、使用していない。

また、同社は大会開幕直前になった代表にエールを送る動画を公開した。日本の戦国時代のような舞台に、イングランド代表のホームユニフォームと同じ赤いバラの刻印がされた白の甲冑を来た選手が馬に乗って草原を駆け抜けており、最後に「Be their armour、#WearTheRose」というメッセージが入る。ここでも、W杯については一切言及していない。

しかし、侍を表現することで日本を想起させることができ、この映像がラグビーW杯に向けたものであることは見た人が簡単にイメージできる。大会に関する商標、名称といった知的財産を使用しなくても、自分たちが支援していることを大衆にアピールすることが十分に可能。それをO2のアンブッシュマーケティングは示してくれている。