2019年11月20日、日本オリンピック委員会(JOC)は、オリンピックにおける出場選手の広告規制を緩和することを発表した。この広告規制の前提となっているルール40は、今年に入りドイツやアメリカを中心に緩和される動きにある。世界の流れを受けて、JOCが定めるオリンピック東京大会でのルール40のガイドラインはどのようになるのか。オフィシャルスポンサー案件、非スポンサー案件双方のスポーツビジネス法務を多く手がけている早稲田大学スポーツ科学学術院准教授・弁護士の松本泰介氏にお話を伺った。
前回の記事「オリンピックで把握すべきルール40とは」

2020年に向けたルール40に関する世界のトレンド

前回お話したように、オリンピック期間中に、出場選手が公式スポンサー以外の広告に出演できないことを定めたルール40は、2015年以来徐々に緩和されてきました。2019年に入ってこのトレンドは大きく加速しています。

まず、2019年2月に、ドイツオリンピック委員会(DOSB)は、ドイツのカルテル庁(日本における独占禁止法などを管轄している官庁です)からの指摘を踏まえ、従来より大幅に緩和されたルール40ガイドラインを発表しました(ドイツのカルテル庁は2017年からドイツ国内におけるルール40の運用について、支配的地位の濫用の観点から調査を行っていました)*¹ 。このガイドラインによれば、選手の個人スポンサーは、ガイドラインの要件を遵守する必要があるものの、従来から以下の点が大きく変更されています。

・DOSBに対する事前申請および事前許可が不要。
・いわゆるブラックアウト期間中でも、以前からの継続的な広告のみならず、新規の広告も可。SNS上での、選手から個人スポンサーへの感謝投稿、個人スポンサーから選手への祝福投稿も可。
・使用が禁止されるオリンピック用語リストから一部削除。金メダル、銀メダル、銅メダル、夏季大会、冬季大会などの用語が使用可。ただし、オリンピック保護法は要注意。
・競技中または競技外で撮影された写真が使用可。ただし、競技中の写真はオリンピックシンボルが写っていないことが条件。
・ルール40違反は金銭的制裁に限られ、資格停止、メダル剥奪などスポーツ関連制裁の対象にはならない。こちらに関する紛争は通常裁判所のみで取扱い、仲裁では取り扱わない。

なお、このガイドラインは、以前IOCが定めていたガイドラインを大幅に緩和するものであったものの、IOCもドイツ国内においてはこのガイドラインが優先することに同意しています。この流れを受けて、IOCのトーマス・バッハ会長は、全世界的に適用されるものではない、とコメントしていましたが、2019年6月のIOC総会においては、ついにオリンピック憲章第40条付属細則3項の規定が以下のように改定されました*² 。

「オリンピック競技大会に参加する競技者とチーム役員、 チームスタッフは IOC 理事会が定める原則に従い、 自身の身体、 名前、 写真、 あるいは競技パフォーマンスが宣伝の目的で大会期間中に使用されることを許可することができる。」

これまでは原則として使用が禁止され、一部例外的な場面に限り使用が認められるに過ぎませんでしたので、原則と例外を逆転させる今回の改正は非常に大きな転換点になりました。そして、IOCは、改正された付属細則3項に基づくガイドラインを発表しています *³。

写真:アフロ

また、2019年10月には、このIOCガイドラインを前提に、アメリカオリンピックパラリンピック委員会(USOPC)も、2020年オリンピック東京大会に向けたルール40ガイドラインを発表しました*⁴ 。このガイドラインは、前回お話した2016年オリンピックリオ大会時に策定したルール40ガイドラインを緩和するものですが、いくつか条件もつけられています。このガイドラインの主なポイントは以下のとおりです。

・選手が広告開始以前に申請し、個人スポンサーが誓約書に合意することが条件(申請の期限はなし)。ルール40違反は、選手の出場資格に影響。
・個人スポンサーの広告は、いわゆるブラックアウト期間中からみて継続的な広告であり、通年の同時期に比べて頻度が上がったり、大きな変化がないことが条件。
・ジェネリックマーケティング(商品やサービスに言及する広告)は、オリンピックコンテンツ(選手のオリンピックへの出場への言及を含む)を使用しない限り可。
・アスリートマーケティング(SNS上での企業や選手への言及)は、選手単独で行い(複数は禁止)、オリンピックコンテンツを使用せず(会場写真の使用や、オリンピックSNSの再投稿も禁止)、商品やサービスに言及しない限り可。選手は感謝投稿などを7回まで可。個人スポンサーは祝福投稿などを1回まで可。

前回でもお話したとおり、以前のUSOCのガイドラインは、6か月前申請、4か月前からのキャンペーン開始を義務付けていたところが批判を受けていましたので、今回、申請時期については、制限がなくなっています。

その他、スポーツ先進国では、IOCガイドラインを受けて、2019年7月にオーストラリアオリンピック委員会(AOC)*⁵ が、2019年10月にはイギリスオリンピック委員会(BOA)*⁶ が、新たなルール40ガイドラインを発表しています。それぞれのガイドラインでは、どのような広告がセーフかアウトか図を使いながら説明されているので、公表されているガイドラインを確認してみてください。各国のガイドラインはそれぞれ微妙に異なっているため、企業が広告起用する選手がどの国に所属するのかを十分に確認しながら対応する必要があります。

日本のルール40ガイドラインはどうなる?

2019年11月20日、日本オリンピック委員会(JOC)は、前述のオリンピック憲章の改正、IOCガイドラインを前提に、オリンピックにおける出場選手の広告規制を緩和することを発表しました。JOCは、既に以前のオリンピックで、企業が所属契約を締結している選手に関しては事前申請によるマーケティング起用を可能としていますが、所属契約を締結していない個人スポンサー企業も条件付で認めることを発表しています。12月をめどにJOCによるルール40ガイドラインが作られることになっていますが、上記の海外のトレンドをJOCがどれだけ踏まえるかがポイントになります。このような規制緩和に対応するため、オリンピックに出場する選手と契約する企業は、東京大会において、選手を活用したマーケティング企画を早急に練っていく必要があります。

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