2019年12月に、日本オリンピック委員会(JOC)は、『東京2020オリンピック競技大会に関する知的財産保護・日本代表選手等の肖像使用について-マーケティングガイドライン-』(通称、JOCマーケティングガイドライン)を発表した。オリンピック東京大会の公式スポンサーであれ、非スポンサーであれ、オリンピックを活用したマーケティングを行う場合、このガイドラインを把握しておく必要がある。このガイドラインにどう対応していくか、前回に引き続き、早稲田大学スポーツ科学学術院准教授・弁護士の松本泰介氏にお話を伺った。

 JOCマーケティングガイドラインの変更内容

2018年平昌オリンピックの際のマーケティングガイドラインと比較して、今回大きく変わった点は以下の2点です。

①以下の条件の下、非スポンサーが大会に出場する所属選手を起用したマーケティングを、オリンピック期間中も実施できる。
・2020年3月31日までに個人スポンサーの事前登録と事前確認書が必要
・マーケティング内容は2020年5月15日までの事前申請制
【掲出時期】2020年3月31日までに開始している必要がある
【広告表現】オリンピック東京大会に関する知的財産権の利用は不可
【使用媒体】テレビ中継、会場付近などへの広告出稿は不可
【出稿量】大会時期に合わせた多量の出稿は不可
【報告】実施報告等の提出


②非スポンサーによる所属選手の壮行会、報告会、祝勝会などは可能になった。その他告知、PRに関する規制は以下のとおり。
▼個人スポンサー、所属先企業の場合
・参加選手発表記者会見(バックボードなどへのロゴ表示)は不可
・壮行会などは実施可能だが、対外的な発信(ニュースリリース配信、WEB掲載、SNS投稿)は不可。期間の定めはなし。
・所属選手の代表決定や、出発帰国、大会結果などに伴う、対外的な発信は不可。
・グッズや横断幕制作は不可。
・選手から個人スポンサー、所属先に関するSNS投稿(感謝メッセージ)は1スポンサーあたり1つのみ可。非スポンサーから選手へのSNS投稿(お祝いメッセージ)は、大会期間終了後のみ可。

▼非営利団体の場合(国内競技団体、自治体、公共団体、教育機関、医療法人等)
・バックボードへのロゴ入り参加選手発表記者会見
・PRや資金調達を目的としない壮行会、報告会、祝勝会のメディア公開
・大会参加者の出場や結果に関わる事実のみを表示した横断幕制作は可能


それでは、このような内容のJOCマーケティングガイドラインについて、企業はどのような視点で内容を理解すればいいのでしょうか。このガイドラインの法的性質は、JOCが単独で定めたルールに過ぎませんので、相手の合意があって初めて法的拘束力を有します。公式スポンサーはスポンサー契約に基づき、このガイドラインの内容を遵守する法的義務を負っていますので従う必要があります。一方で、非スポンサーは何らかの契約を締結しているわけではありませんので、このガイドラインに従うか否かは、各企業次第になります。

ガイドラインにいかに対応するか

まず、所属選手をマーケティングに起用する場合、その選手がオリンピックに出場するのであれば、基本的にこのガイドラインの遵守を検討する必要があります。出場選手はルール40を遵守する必要があり、これに違反することは選手の大会出場資格に影響しますので、慎重な対応が必要です。もっとも、オリンピックにおいて大活躍が期待でき、注目度の高い選手を統轄する競技団体が出場停止にまでするかは、大きなハードルがあるとも思われます。

一方で、所属選手をマーケティングに起用しなければ、ルール40は関係ありません。むしろ、この連載で以前に解説しましたとおり、アンブッシュマーケティング規制は、確かにオリンピック主催者にとっては、保有する知的財産や公式スポンサー、公式メディアなどの保護のために必要ですが、法的合理性の裏づけなく規制はできません。オリンピック主催者が規制するかしないかは、知的財産の保護とコンテンツの自由利用とのバランス、独占禁止法などの経済法の遵守などを慎重に検討しなければならないでしょう。これまで解説してきましたように、他国のガイドラインでは様々なオリンピックを活用したマーケティングの余地が認められています。非スポンサーとしては、法的に保護された知的財産権を侵害しないのであれば、様々なマーケティングの余地があるでしょう。

JOCマーケティングガイドラインはこちらより

<アンブッシュマーケティング概要>
#1 アンブッシュマーケティングとは
#2 ラグビーW杯非スポンサー企業、アンブッシュを駆使してイングランド代表の壮行会を実施
#3 アンブッシュマーケティングの合法と違法の境界線
#4 スポンサー契約は、マーケティングの1つの手法に過ぎない
#5 オリンピックで把握すべきルール40とは
#6 オリンピック東京大会におけるルール40はどうなる?最新情報
#7 オフィシャルスポンサーでなくともできる広告活動の実例紹介
#8 ラグビーW杯とアンブッシュマーケティング
#9オリンピック東京大会におけるルール40を解説ー非スポンサーにできることー