前回まではアンブッシュマーケティングの考え方や選手の広告起用を定めたルール40について解説してきた。今回は直近のラグビーW杯で企業がどのようなマーケティング活動を行っていたか事例を紹介する。オフィシャルスポンサー案件、非スポンサー案件双方のスポーツビジネス法務を多く手がけている早稲田大学スポーツ科学学術院准教授・弁護士の松本泰介氏にアンブッシュマーケティングについてお話を伺った。

ラグビーW杯2019の成功

ラグビーW杯では、オフィシャルスポンサーではない企業が、大会を活用した様々なマーケティング活動を行っていました。生命保険会社のAIGは、ニュージーランド代表オールブラックスのスポンサーではありますが、ワールドカップの大会スポンサーではありません。この状況の中、試合がない時にオールブラックスの選手たちは、AIGが主催する様々なイベントに参加していました。

例えば、東京の日本橋の神社や商店街を訪問する外国人旅行者向けの冊子のPRイベントに参加。大分県の社会福祉施設を訪れ、同社が業務提携している企業の装着型サイボーグのリハビリ機器の紹介なども行いました。

他にもニュージーランド航空は、オールブラックス来日記念と称し、同社の日本語ホームページで割引キャンペーンを実施。また、同社の日本版SNSでは、大会期間中にオールブラックスの動向を、「ワールドカップ」の文言を使うことなく逐一、伝えるなど多岐に渡っています。

日本ではそこまで馴染みがないかもしれませんが、ニュージーランド航空はナショナルフラッグで同国を代表する企業の1つ。また、AIGは世界最大規模の生命保険会社です。こういった企業が行っていることは、まさにどれだけアンブッシュが、当たり前のマーケティング手法であるかを示しています。

そして、知的財産の侵害をどう考えるかとなった時、ワールドカップみたいな言葉が商標として取られているのであれば、その範囲はNGとなります。ただ、登録商標でなければ知的財産として独占されている訳ではないので使えます。ニュージーランド航空はオールブラックスを応援するのに、「準決勝を控えた選手たち」といった表現を使っていました。この準決勝は誰もがタイミングからいってワールドカップの準決勝を指していることは分かりますが、試合があるという事実を示す言葉としての「準決勝」に商標は取れないので問題ないです。

その他にも、三井不動産は、大会スポンサーではありませんでしたが、柏市で実施されたオールブラックスの大会事前キャンプを同市と共同開催したことで様々な応援企画を実施しました。大会前に代表選手が登場する応援イベントを開催し、大会中は三井不動産が展開するショッピングモールのららぽーと柏の葉で、オールブラックスの全試合パブリックビューイングを行なっています。また、地元の鉄道、バスにはオールブラックスのラッピングをした車両が走りました。このような企画は多くのメディアで取り上げられ、柏市や駅前の三井不動産の施設の露出度アップにもつながりました。

これらの事例はラグビーW杯に全く関係ない企業のマーケティングではなく、オールブラックスに関連する企業であったため、典型的なアンブッシュマーケティングの事例とは違います。ただ、オフィシャルスポンサーではない企業が行った事例という意味では参考になるでしょう。

ラグビーW杯組織委員会では様々な意見があったと思いますが、知的財産の侵害や法律違反を超えてまでNGを出さず、むしろ大会の盛り上がりのために、許容していたようにも感じました。この柔軟な姿勢が、にわかファンも続出することにつながり、結果としてラグビーW杯の大成功をもたらした要因の1つになったでしょう。

<アンブッシュマーケティング概要>
#1 アンブッシュマーケティングとは
#2 ラグビーW杯非スポンサー企業、アンブッシュを駆使してイングランド代表の壮行会を実施
#3 アンブッシュマーケティングの合法と違法の境界線
#4 スポンサー契約は、マーケティングの1つの手法に過ぎない
#5 オリンピックで把握すべきルール40とは
#6 オリンピック東京大会におけるルール40はどうなる?最新情報
#7 オフィシャルスポンサーでなくともできる広告活動の実例紹介
#8 ラグビーW杯とアンブッシュマーケティング
#9オリンピック東京大会におけるルール40を解説ー非スポンサーにできることー